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親友 3

「だいたい、サガもアイオロスも勝手なんだよ」
ミロは忌ま忌ましげに言葉を吐く。
その言葉にアイオリアは何と返事をして良いのか分からなかった。

デスクィーン島にやってきた彼らは、黄金聖衣をまとってはいない。
あくまでも私用で済ますつもりだったからである。
島はギガントマキアを終え、その大地に小さな緑を芽吹かせていた。
しかし、再調査を行っていない土地なので何が起こるか分からない場所だった。
二人は注意深く辺りを見回す。
「ミロ。後は俺がやるから、お前は聖域に戻れ」
アイオリアは巻き添えにしたくないので、彼に戻るよう言った。
普段は行動が制限されることはないが、彼は精神状態が不安定だったので待機の命令が出ていたのだ。
それを無視してデスクィーン島にやって来た。
これは命令違反として処罰の対象になる。
しかし今ならまだ、島に何か手がかりが有るのではないかと二人は考えたのだ。

ミロはアイオリアの顔をしばらく見た後、
「断る」
と言って歩き始める。
「おい!」
「13年前は真実を探さなかった。 また同じことを繰り返したら、俺は大馬鹿者だ」
周囲から与えられた情報を真実とし続けた時間は、あまりにも長い。
アイオリアはそれ以上何も言えなかった。


無数の選択肢。
有益な判断と危険な賭。

アイザックは、聖域を歩く中で幾つかの情報を得た。
それはささやかな出来事ではあるが、彼にとっては重要な意味を含んでいる。
しかし直感で断言するには問題があった。
(この解釈でいいのだろうか……)
あまりにも悩みは深く、彼の足はいつしか海の方へ向かっていた。

崩壊した神殿の跡地にアイザックは立つ。
どうしてここに来たのかよく分からないが、どこか心惹かれるものがあった。
そこから眺める海は穏やかな表情を見せている。

「珍しい人がいますね」
背後にいる人物から話しかけられたが、彼は既にその人物が誰なのか知っていた。
「セイレーン……」
「海で何かあったのですか?」
ソレントの問いにアイザックは首を横に振った。
「海は関係ない」
意外な返事にソレントは怪訝そうな表情になる。
「関係ない?」
「……それよりも、ポセイドン様は見つかったのか?」
逆に質問をされてソレントは自分の知っている情報を口にした。
「聖域にはいないようです。気配すら感じられません」
しかし、海皇か海闘士の力を借りなくてはジュリアンは海底神殿から出れない。
そして状況から判断すると、海皇が彼の身体を使って外へ出たのに違いなかった。
どんな理由に基づいてなのかは依然として分からないのだが……。
「とにかく闇雲に動いても無意味です。
それに、どうもポセイドン様は意図的に隠れているように思えるのですよ」
女神エリスによる闘士たちの復活劇から、海皇は不安定な動きを見せていた。
その中で発覚した女神パラスの存在。
断片的な情報しか得られていないが、海皇の孫娘だという彼女は相当の実力者だったらしい。
(ポセイドン様はあの方に会いたいと思っているのだろうか?)
ふと、ソレントはそんなことを考えた。
しかし、今の自分たちでは女神パラスを探すのは不可能に近い。
過去の時代へ飛ばされた事の有るクリュサオールとリュムナデスの海将軍たちも、彼女を見かける事なく今の時間に戻されたという。
ソレントまで考え事を始めてしまったので、二人の間に沈黙が流れた。