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親友 2

荒れていたはずの大地で風が歌う。柔らかい日差しの中で花が笑う。
その場所は草花が盛りを迎えたのか、美しい色の絨毯となって大地を覆っていた。
美穂はそんな光景を綺麗だと言い、星矢達の方は目を丸くする。
聖域で暮らしていた彼らも、こんな風景を見たのは初めてだったからだ。

「どんな天変地異だ……」
カノンの呟きにシュラも返事が出来なかった。
その時、彼らは少し離れた所から自分たちを見る視線に気が付いた。
その様子に気が付いた美穂も、その場所に立っている人物を見る。
「あっ……」
彼女は思わず驚きの声を上げた。
そこに居たのは見覚えのある人物だったからである。
「教皇が何故ここに?」
シュラの疑問に答えられる人間は居ない。

聖域という組織を長い間統括していたシオンは、昨日スターヒルで小さな星を見た時から気持ちが落ち着かないでいた。
理由は彼自身にもよく分からないが、何か待ち望んでいた事が起こるような気がしてならないのだ。
それは確かに喜ばしいという感覚なのだろうが、残念なことにシオンには女神アテナの降臨の時以外には体験したことがない。
その為、自分が何に対して喜ばしいと思っているのかが分からないでいた。
だが、夢に見た少女が花の絨毯が敷き詰められいる大地の上にいる。
彼は心の中で、この瞬間に立ち会えた事を女神アテナに対して感謝したのだった。

(やはり、ミホはあの時の少女だ)
243年前の聖戦の直後、海辺にて波と戯れていた謎の少女。
あの時も自分は似たような角度から彼女を見付けた。
一瞬、時間が巻き戻ったような気すらして、彼はゆっくりと少女のもとへと歩きだす。

「……あの……」
美穂もまた夢で会った青年が目の前に居ることに戸惑っている。
「もしかしてシオンさん?」
そう尋ねながらも、彼女は心の何処かで別人であることを望んでいた。
本当に当たっていた場合、何もかもが運命という言葉で片づけられてしまいそうに思えたからだ。
自分の立場も、星矢が傷つきながら沙織を守るという事も……。
そんな彼女の様子を知ってか知らずか、シオンは嬉しそうに笑った。
「ミホ。名を覚えてくれて感謝する」
その返事に、美穂はその場にしゃがみ込んでしまう。

この劇的な展開について、星矢は全然納得が出来なかった。