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親友 1

資料には情報が残っているのに建築物の所在確認が取れない。
この報告にダイダロスは悩んだ。
たとえ何らかの理由で打ち壊されていたとしても、石造りの神殿なのだから建築跡が残っている筈である。
彼は見落としが無いかと別のページを捲る。
すると小さなメモが挟まれていた。
『女性の聖闘士に頼め』
そう書かれたメモは随分古い時代に書かれたものらしく、紙は既に変色している。
(何だ。これは……)
以前にも読んだことのある本なのに、ダイダロスはメモを初めて見る。
(聖域は女人禁制のはず……)
彼は息をのんだ。
このメモを見る限り、昔は女人禁制を強調して女性の聖闘士を排斥するような事はしなかったのだろう。
この時、ある推測が彼の脳裏を過ぎった。
「まさか点在する神殿の中に男子禁制のものがあるのか!」
ダイダロスはいったん本を閉じると、慌てて書庫から出た。
魔鈴とシャイナなら、目的の神殿を見つける事が出来るかもしれない。
ただ、完璧に女性のみで構成される女神ヘスティアの神殿ならいざ知らず、女神ヘカテがその様なことをする理由が分からない。
(……)
ダイダロスは最後まで自分を疑わず慕ってくれた弟子の姿を思い出す。
彼の胸は痛んだ。
太古の女神は再び生贄を要求しているのだろうか。
どちらにしても、彼女らの協力が無ければ事態が進まない。
だが、ダイダロスはどうしても不安感が拭えずにいた。

ギガントマキア終了後、自宅待機だった二人の女性聖闘士が目的の場所へ向かう。
もうすぐ太陽は南中にさしかかる頃だった。


白銀聖闘士達の動きと前後して、沙織は自分の中である決断を下す。
そして邪魔が入る前に畳みかけるように動いた。
シオンには美穂を出迎えるよう命じ、直ぐさま童虎と春麗を呼んだのである。

「春麗をですか……」
いきなり呼ばれた童虎は、沙織の話にどう返事をしようか躊躇いを見せる。
女神アテナは聖闘士の要と呼ばれる男に、養い子の同行を依頼したのだった。
太古の女神に会いに行くのは闘士ならば名誉な話だが、春麗は一般人である。
危険な場所であることも考慮しなくてはならない。
しかし、春麗は既に行く気になっていた。

「老師。私も沙織さんと一緒に行きます」
紫龍に力を貸してくれた女神は、偶然にも自分に親切にしてくれた精霊の主であった。
この二つのつながりが春麗の決意を強固なものにしていた。
彼女は心の中で、力ある女神が優しいエウリュディケーを危険な目に遭わせて平気なはずがないと思っていたのである。
沙織は女神ヘカテの厳しさも残酷さも承知していたが、春麗の想いもまた理解出来た。
自分もまた同じ気持ちだったからだ。
それでも迷う童虎に沙織は静かに言った。
「一応、オルフェが女神達に音色を捧げるという理由で私たちと同行します」
そして本人は既に、女神の宴に行くための準備に入っていると言う。
「彼の音色でなくては、こちらから宴には行けません」
自分の恋人だった女性と関わりのある女神に会う。
琴座の白銀聖闘士がどのような気持ちなのか推し量ったところで、それしか方法がないのである。
そこまでの決意に童虎は折れるしかなかった。