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続・神速 8

女神アテナの命令が聖域中を駆けめぐるのには、たいして時間はかからない。
だが、肝心の女神ヘカテの神殿探しは難航する気配が見えた。
沙織から伝えられた情報に該当する場所は幾つかあるのだが、肝心の神殿らしき建物が見当たらないのである。
それでも聖闘士たちは諦めずに、目的の場所を探し続けた。

(青い首飾り……)
それが何を意味するのかは、沙織自身よく分かっている。
彼女は社殿の一室に戻ると、女官に紙とペンを持ってこさせた。
そして椅子に座ると、アイザックの聞いた言葉とそれに関わる自分の考えを書き始める。

アイザックのみた夢が予知とも言うべきものなら、これから自分と美穂は太古の女神の許に行くのだ。
そしてギガントマキアにおける女神達の協力に関して礼を述べ、彼女たちに聖域の存在を了承してもらわなくてはならない。
だが、沙織にとって最大の難関は、その宴に呼ばれているであろう海の女神達だった。
彼女らには美穂に関して手を出さないよう言う必要がある。
となると、考えれば考えるほど、美穂を連れていくのは危険なように思えた。
しかし、彼女を置いていけば面倒な事になるのも容易に想像がつく。
(でも、ヘカテ様の宴なら海の女神達も話くらいは聞いてくれる筈だわ)
沙織はペンを走らせる。
自分と美穂だけでは、美穂が行きたくないと言うのも考えられる。
無理矢理納得させたところで、途中で帰ると言い出されたら自分では引き止められない。
(春麗さんに同行してもらった方が良いかもしれない)
童虎と紫龍が何か言い出すかもしれないが、沙織はこの二人に関しては動きを押さえる自信があった。
とにかく沙織は、美穂にたいして過大な期待を持ってしまっている。
(彼女の記憶が戻ってくれれば……)
一緒に居られるかもしれない。
それだったら、どんなに心強いだろう。
でもその反面、再び自分の許から居なくなるのではという考えも過る。
万が一そのような事態になったら、自分は耐えられるのだろうか。
(……あの時は耐えられなかったから、ポリュデウケースを苦しめる事になった)
カノンに対して女神ネメシスの許に行くと告げた初代双子座の黄金聖闘士。
彼のことも女神ニュクスに尋ねることが出来るだろうか。
(とにかくニュクス様に会って、氷河とアイザックの動きが咎められないようにしないと……)
では、どうやって女神ヘカテの許に行くか。
この時沙織の脳裏に、一つの計画が出来上がっていた。

十二宮から戻ったカミュは、そのまま絵梨衣の眠っている部屋へと戻った。
そこには弟子の氷河が居るし、絵梨衣に何かあった時に自分も動こうと考えていたからである。
彼はエリスの依代である少女が目を覚まさないのは、自分が異空間で攻撃を受けたときに守りきれなかった所為ではないかと思っていたのだ。
実際にそれが原因なのかは、呪術に詳しくないカミュには分からない。
だが彼は、今の自分に出来ることはそれくらいだと考えていた。

そして部屋のドアを開けると、海将軍である弟子が私服姿で居た。
「……」
よく出来た弟子で自分の教えを守り気配を消していたので、カミュは多少なりとも驚いてしまう。
だが、彼は直ぐさま冷静さを取り戻す。
「先生。お願いしたいことがあります」
アイザックの頼みに、カミュは内容も聞かず分かったと答える。
そして二人の弟子の話をじっくりと聞いたのだった。

そして話が終わると、カミュは弟子の目を見ながら言った。
「アイザック。夢を読み解いてくれた人には、お前の方から礼を言っておいてくれ」
「……」
師匠の言葉にアイザックは表情を変え、氷河は二人の様子を交互に見ていた。
そして彼もまた、ある事実を思い出した。
「夢を読み解くって、まさかこの夢を見たのはブルー……」
その時カミュが片手で氷河の口を塞ぐ。
「それ以上は言わなくていい」
二人の様子に、氷河は緊張した面持ちで頷いたのだった。