森の中のハインシュタイン城は美しかった。 瞬は何か久しぶりに来たように錯覚してしまう。 ところが城の一部が破壊され、森もまた何本かの木々が倒されているのだ。 良くない考えが頭の中を過る。 冥界側の情報が何も無かったので、彼は心の中でパンドラが無事である事を願った。 だが、ラダマンティスもハインシュタイン城に詰めている冥闘士たちも、特に瞬達の訪問を厭うことなく対応をした。 これにより、瞬は冥界の女主人が無事であることを察したのだった。 「それで、お主たちがやって来たというのか」 パンドラは彼らから聖域での出来事を聞き、腕を組む。 瞬と一緒に居るのは、牡牛座の黄金聖闘士だった。 しかしアルデバランはあまり喋らず、用件は全て瞬が喋っていた。 ラダマンティスは彼女の後ろに立って、この訪問者の目的を注意深く聞いている。 「はい。もし使者と思われる女性ががこちらにも来ていたら、詳しい話を聞いてくれませんか」 この言葉にパンドラは頷いた。 「その者の目的が分からない以上、こちらでも注意をしよう。 ラダマンティスも心得ておけ」 「承知いたしました」 勇猛なる男は迷う事なく、そう答えたのだった。 本来、パンドラに会うだけなら瞬一人で済む話なのだが、万が一ハインシュタインの方で何かしらトラブルがあった時は彼が戻ってこれないと言うことがあり得る。 そういう危機感もあってアルデバランがサポート役に同伴したのだった。 実際はというと彼らが危惧するようなものは何も無く、外から人々の賑やかな声が聞こえてくるくらい平穏な時間が流れていた。 だがハインシュタインの女主人は、美しい城と森がギガントマキアにより傷つけられた事を憂いている。 それもあって、城の中では修復と保全に多少なりとも専門知識を持っている冥闘士たちが忙しく動き回っていた。 二人は冥闘士たちの邪魔をしないよう早々に引き上げようとする。 ところがパンドラが何の気まぐれか二人を見送ると言って一緒に外へ出たのである。 彼女は周囲に人が少なくなったのを見計らって、いきなり瞬の腕を掴んだ。 「どうしたのですか」 瞬は驚いて、パンドラの顔をじっと見る。 するとパンドラもまた瞬の顔を見つめた。 しかし、その眼差しは何処か戸惑っているようだった。 「アンドロメダ……。お主に尋ねたいことがある」 彼は何か嫌な予感がした。 「何ですか」 「カメレオン座の聖闘士は、どういう男が好みか知らぬか?」 この問いに瞬だけでなくアルデバランとラダマンティスもまた絶句してしまう。 とにかく話の意味が分からない。 「ジュネさんの好みって……」 「調べた所によると、そなたとカメレオン座の聖闘士は師匠が同じと言うではないか。 何か聞いてはおらぬか」 その真剣な眼差しはパンドラが冗談を言っているわけではないと分かるのだが、それでも瞬には彼女が何を聞きたいのか想像がつかない。 「どうしてそんな事を知りたいのですか」 「それは秘密だ」 「まさかジュネさんと冥闘士の誰かを見合いさせようなんて、考えていませんよね」 瞬の問いにパンドラは暫く何かを考えた後、嬉しそうな表情をした。 「そうか。その手があったか。 よし、早速アテナに手紙を書く。 アンドロメダと牡牛座には、少し待ってもらうぞ」 彼女はそう言って城へと戻っていった。 ラダマンティスも慌ててその後を追う。 瞬とアルデバランはこの様子に茫然としてしまった。 「なんで……」 瞬は自分の発言の迂闊さを呪いたくなった。 自分の隣で青ざめる青銅聖闘士を見て、アルデバランはどう言葉を掛けようかと考える。 「アンドロメダ。とにかく彼らよりも先に見つけるしかあるまい。 カメレオン座の聖闘士が冥界に降りてないのなら、勝負は五分五分だろう」 「えっ?」 「だから冥界に居ないからこそ、向こうもお前に聞いたのではないのか」 パンドラは冥界の絶対者である冥王の姉である。 ジュネが万が一にも冥界に居るのならば、冥闘士たちが気付き彼女に報告をしただろう。 (そうか、向こうもジュネさんを見つけてはいないんだ) それが分かっただけでも瞬は嬉しかった。 しかし、冥闘士達にまで動かれるのは、かなり嫌な事態だった。 その時、二人の背後に黒い影が現れる。 不意打ちではあったが、とにかく相手の動きは早かった。 「牡牛座。生きていたか!」 いきなり喜びの一撃を喰らいそうになり、アルデバランは間一髪で避ける。 「ガルーダ殿!」 「良いところで会った。牡牛座に頼みたいことがある」 そう言ってアイアコスは二人の腕を掴むと城へと歩き始めた。 二人はバランスを崩しそうになりながら、アイアコスの後に続いたのだった。 |