どんな屈強の敵でも倒すまで戦い抜く男も、少女の繊細な悩みには無力だった。 |
死の神タナトスは小高い丘から聖域の様子をじっと見た。 夜は母神であるニュクスの支配力が強く自らもその性質を受け継いでいるので、聖域にいる女神アテナや聖闘士に自分の事が知られることはない。 彼は空を見上げた。 二つの流れ星が、二ヵ所の黄金宮に吸い込まれる。 それと同時に聖域中で生命が蠢く様子が見えた。 『聖闘士に贈り物など、物好きな話だ』 彼は不満げに呟くと、そのまま闇に溶け込む。 あとには銀色の光が残り、それもまた静かに消えていった。 そして聖域では、黄金宮の近くに明かりが次々と灯り始めたのだった。 黄金宮に飛び込んだ流星。 それを確認し問題の宮を調べた時、ミロは絶望というのはこういうものなのかと思った。 隣ではアイオリアが表情を変えずに目の前にあるものを見ている。 双児宮にサガの聖衣、人馬宮にアイオロスの聖衣が現れたのだ。 流星の正体がこれでは、黄金聖闘士たちの間にも不吉な考えが過ぎってしまう。 それ以上に女神アテナに何と報告をすればいいのか。 黄金宮の窓から朝の光が射し込む。 その光に照らされて、主の居ない黄金聖衣は美しく輝いていた。 |