案の定、星矢は仮眠を取るといいながらも既にベッドで熟睡していた。 シュラもまた目を瞑って椅子に座っている。 しかし、カノンは仮眠を取る気にはならなかった。 この宿を紹介した海闘士は、海底神殿では寡黙な人間だったのだ。 (何者かがあれをトランス状態にさせて、俺達をここへ連れてこさせたのだろう) 海底神殿に戻れば、向こうはこの宿の事も覚えていない可能性がある。 (宿の中を調べるか……) 彼がそう判断して立ち上がった時、隣の部屋で何かが動く気配がした。 しばらくして、隣の部屋に続くドアが静かに開く。 ショールを肩にかけた美穂が、部屋の様子を見に来たのである。 「あの……」 彼女の戸惑った様子に、カノンは席を立つと静かにするよう言う。 「一人で不安なら、そこのベッドを使え」 そう言って星矢の隣を指さされて、美穂は慌てて首を横に振った。 「もう、大丈夫です。 ご心配をお掛けしました」 しかし、彼女の表情はどこか悲しそうだった。 美穂は星矢に近づくと、彼の様子をしばらく見つめる。 カノンは美穂の表情に怯えの気配を感じた。 「俺が怖いのか」 美穂は首を横に振る。 「迷惑をかけてしまって、本当にすみません」 しかし、カノンからすると美穂の体調不良は想定内の出来事であった。 それに彼は海闘士たちを長年束ねているうちに、突発的な事件や事故に馴れてしまっていたのだ。 「移動の事については心配するな。ここには大人が二人も居る。 スケジュールのズレなど幾らでも対応するし、ここから日本に戻りたかったらすぐ手配しよう」 すると美穂は何か迷っているような顔をした後、星矢の眠っているベッドの縁に座った。 「カノンさん。話を聞いてくれますか」 その真剣な表情に彼は頷いたが、一応シュラの方も見る。 しかし、不思議なことに山羊座の黄金聖闘士も起きる気配を見せなかった。 彼女は意を決して自分の胸の内を話し始める。 「私、絵梨衣ちゃんや星華お姉さんには会いたいです。 でも沙織お嬢さんには会いたくないんです」 カノンは表情を変えず、ただ黙っていた。 |
夜の静けさに包まれる聖域。 今回、戦場となった十二宮は建物の耐久度に問題がある為、黄金宮に居るのは任意という事態になった。 本来、敵の侵入というレベルなら黄金聖闘士に管理を任せるのだが、今回は呪術の影響が懸念されたのである。 残念なことに呪術に対して聖闘士たちは無力だった。 そんな中、金牛宮の主は自分の守護する建物に戻る。 ムウがジャミールから出てこなかった間、彼は十二宮の最初の砦であり続けたのだ。 その為、彼は聖域にいるときは金牛宮にいないと逆に落ち着かないのである。 そしてこの日の彼は客を伴っていた。 「申し訳ない。 こちらも探してはいるのだが、まだ報告が来ない」 アルデバランは相手に対して詫びる。 するとその人物は彼に感謝の意を示した。 「いいえ。それよりも、うちの筆頭将軍が居ないのが問題です」 ソレントはカノンの不在に怒りを覚えていた。 いくら女神アテナの依頼でも、自分の主神を放っておくというのが彼には理解出来ない。 ある程度目星がついたら、他の聖闘士に後を任せるべきではないかと思うからだ。 「まぁ、向こうでも何か大変なことが起こっているのかもしれない」 アルデバランはそう言いながら、シードラゴンの海将軍と山羊座の黄金聖闘士、そしてペガサスの神聖衣の所有者が一緒にいて大変だと思う事態があるのかと自分でも考えてしまった。 |