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続・神速 1

いくら隠密行動でも、どういうわけだか知り合いに会ってしまうということが発生したりする。
カノンの場合、それが海闘士の人間だった。

雲行きの怪しくなってゆく見知らぬ街の夕暮れ。
そんな悪条件にもかかわらず、彼は海闘士の一人と顔を会わせてしまった。
「……」
彼は自分がサボタージュしてはいないということを証明しようと、自分が此処にいる理由を捲くし立てた。
そして用事は終わったので海に戻るところだと言い、カノンが何故居るのか深く考えずに知り合いの宿を宣伝したのである。
カントリーインのタイプで非常に落ち着いた雰囲気の所だと言う。
そして小さな宿だが料理は絶品で自分の名前を出せば割引をしてくれるとか、丁寧に地図まで書くと挨拶をして立ち去ってしまう。
マシンガントークというのはこういうものかと、その場にいた全員が思った。
「賑やかなヤツだな」
星矢の言葉に、カノンは何も言わなかった。

結局、カノンはシュラと星矢に有無を言わさず、海闘士が紹介した宿へと向かう。
彼らがそこへ到着する少し前から、雨が降り始める。
「どうやら休めという事らしい」
カノンはそう呟くと、灯の漏れる宿のドアを開けたのだった。

そこはとても古い造りで、どこか物語の一場面のような雰囲気があった。
「素敵だわ」
美穂が嬉しそうな声を出したので、星矢はほっとした。
少し前から美穂は何か黙ったままで、どうしたらいいのか分からなくなっていたのだ。
(俺、何か不味い事を言ったかなぁ)
星矢は何が原因なのか分からず不安になり、美穂の手をずっと繋いでいた。
でも、彼女の気持ちが傍に無いような気がしてならなかった。

運良く宿で用意してくれたのは、コネクティングルームとしても使える部屋だった。
しかも、他に客は居ない。
女将の話だと、オフシーズンだとこんなものだという。
すると奥から白髭の老人が出てきて、良い魚を仕入れてきた甲斐があると言った。
星矢と美穂は素直に喜んだが、カノンは何も言わない。
シュラは宿の雰囲気に何か違和感を感じたが、それが何であるのか分からなかった。

心づくしの料理に宿の女将の楽しい話術。
美穂は楽しそうに過ごしていたが、部屋に戻る途中で蹲ってしまう。
「美穂ちゃん!」
星矢は真っ青になって彼女を立たせようとしたが、カノンが美穂の身体を軽々と抱き上げて部屋へと連れていった。
その後ろで、女将が医者を呼びに行くと言って外へと出ていく。
そして彼女の連れてきた医者の見立てでは、旅の疲れによる体調不良との事だった。

「明日までに回復しなくても無理矢理連れて行くか?」
部屋に戻った時カノンにいきなり問われて、シュラは驚く。
星矢は絶対に反対だと大声を出してしまい、慌てて口を押さえた。
隣の部屋では美穂がようやっと眠ったばかりなのである。
「動かせない少女を連れて行くなど、そんな酷い真似はしない」
「そうか……」
カノンは窓から外を見た。
ちなみに星矢の、
「俺が美穂ちゃんの傍にいるよ!」
という主張はシュラに叩かれて終了する。

雨は依然として降り続いていた。