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神速 7

太陽は時と共に西へと傾き始める。
そして夜の気配が濃くなってゆくと、聖域に静かな時間が流れ始めていた。
(何か全てが遠い昔のように思えるな)
そう考えながら、アフロディーテは聖域の外れにある社殿跡へやって来た。
過去にあった闘いの激しさを物語る場所は、既に苔が生えて土へと還ろうとしている。

彼は朽ちた壁の向こうに目的の人物がやって来たことに気が付く。
「何かあったのか」
アフロディーテは見えない位置にいる人物に尋ねる。
「カメレオン座の聖闘士を生きて捕らえるよう、女神が命令を出しました」
「保護するつもりか」
「その者の追跡と捕縛はアンドロメダの聖闘士が一人で行います」
相手の言葉にアフロデイーテは眉を顰めた。
「一人で?
それだけではないだろう」
「……もしアンドロメダの行動を邪魔する者が現れた時は、追跡者の兄弟子達がその者を排除することになっております」
「勝てなくてもか?」
「これは女神アテナの御命令です」
疑問に思っても逆らう事は許されないという意味を察して、魚座の黄金聖闘士は腕を組んだ。
「ダイダロス。どうやら先手を打たれたな」
しかし、その言葉に返事は無い。
「それでは失礼します」
声の主の気配が消え、その場にはアフロディーテのみが残される。
(確かにアンドロメダなら誰も文句は言わない)
彼はしばらくその場にいた後、聖域の街へと戻っていった。

夕暮れにやって来た訪問者を見た時、一輝は嫌な予感がした。
「こんばんは。 エスメラルダさんの容体は如何ですか?」
不安げに尋ねる春麗に、一輝は眠っているとだけ答えた。
彼女一人なら、こんなにも警戒はしない。
問題は一緒にやって来た人間の方だった。

「すまんが、春麗をここに泊めてくれんか」
童虎に言われて一輝は驚いてしまう。
「紫龍。何かあったのか」
彼は一緒にやって来た仲間の方に尋ねる。
「沙織さんから警戒態勢を取るよう命令が出た。
それで春麗とエスメラルダさんを一緒に居させる事になったんだ」
「警戒態勢だと……」
そんな話は誰からも聞いていないので、一輝の表情は険しくなった。
紫龍も言い難そうに理由を説明する。
「星矢の幼馴染みの美穂さんが、何者かに危害を加えられそうになったらしい」
その後を童虎が続けた。
「その少女はこちらで救出したが、とにかくギガントマキア直後じゃ。
聖域の混乱に乗じて変なものがやって来ることも考えられる。
今夜は交代で寝ずの番じゃ」
この緊張がいつまで続くのかは誰にも分からない。
だからこそ、今は他の人の手を借りるべきなのかもしれない。
一輝はドアを大きく開けて、彼らを招き入れた。
春麗と手提げ籠を持った紫龍が中に入る。
すると童虎が、ほっとしたような表情になった。
「こういう時は仲間が一緒の方が良い事もある」
そう言って彼は若き聖闘士に飲物の入った壺を渡し、同じように家へ入ったのだった。