シオンはアフロディーテから受け取った青銀色の短剣をじっと見た。 沙織との謁見やオルフェからの聖域内に関する報告、そしてデスマスクからペガサスの幼馴染みに関する情報等を処理した後、彼は再び白羊宮へと戻る。 敵が使おうとした短剣を、じっくりと調べたかったからである。 彼は椅子に腰掛けると、布に包まれた短剣を取り出す。 ムウと貴鬼は彼の様子を見ていた。 「……」 それは見れば見るほど見事な作りであった。 ただ、その姿が聖域に伝わる黄金の短剣と似たようなデザインであるのが気に入らない。 シオンはムウに短剣を渡した。 「あれに似ていますね」 同じことを考えた弟子の言葉に、彼は首を縦に振った。 (敵を捕らえ損ねたのは失敗だったな) この短剣はミホという少女を傷つける為に表舞台に登場したのだろうか。 とは言え、相手の方はこちらの出方を想定して動いていたのだ。 少女が無事なだけでも良しとしなくてはならない。 不意に彼は、沙織が少女について何か困惑している様子を思い出した。 「少女については女官を専属で付けましょうか」 客として扱おうとシオンは考えたのである。 しかし、沙織は暫く考えた後、 「個別で対応するよりも、春麗さんと一緒の行動が出来るようにしてください。 きっと見知らぬ人ばかりだと、彼女は落ち着かないと思いますから……」 「分かりました」 「それと全ての聖闘士達に、侵入者に対して警戒するよう命じなさい。 何かが起こってからでは遅すぎます」 それは、異常事態の発生が確実に起こるという意味にも思えて、シオンは何か胸騒ぎを感じた。 彼は誰にも言わなかったが、心の中では遙か昔に出会った少女であるような気がしてならない。 (ミホは我々と深く関わる様な気がする) シオンは短剣に視線を移した。 孫弟子である貴鬼が珍しそうに持っている。 短剣は静かに光を放っていた。 |
神官から受け取った食事を持って、瞬は社殿の奥へとやって来た。 今回、氷河と絵梨衣の居る部屋に来たのは、神官や女官たちが人手不足で大変な状態だったからである。 瞬がノックをすると、部屋の中から氷河の声が聞こえてきた。 「氷河。絵梨衣さんの様子はどう?」 そう言って部屋に入った時、彼は部屋の片隅に黒い影が見えたような気がした。 だが、部屋の中には怪しい気配は感じられない。 「どうしたんだ。瞬」 なによりも氷河が気が付いていないくらいなのだ。 瞬は目の錯覚なのだろうと、自分を納得させた。 「何でもないよ。食事を持ってきたんだ。 絵梨衣さんの様子はどう?」 すると氷河は恋人の方を向いた。 「……まだ眠っている」 それでも、時々は目を覚まして少しは会話が出来るようになったと彼は言った。 「明日には美穂さんが聖域入りをするって、沙織さんが言っていたよ」 「そうか……」 だが、肝心の絵梨衣が眠ってばかりでは美穂を不安にさせてしまうかもしれない。 本当に会わせるべきなのかは、その場にならないと判断が下せなかった。 ところが二人の会話が刺激になったのか、絵梨衣が薄く目を開けた。 「絵梨衣」 氷河が彼女の顔を覗き込む。 「美穂が……来るって本当?」 「あぁ、本当だ」 「それなら……急がないと……」 そう言って彼女は再び眠る。 「急ぐ?」 瞬は氷河に意味を尋ねたが、彼にも何のことか分からなかった。 |