「結局、最後まで利用されたな……」 ホテルのカフェテリアにてデスマスクはエスプレッソを一口飲んだ。 「後始末までほとんど完璧だ」 同席しているカノンはしばらく沈黙した後、カップに手を伸ばす。 「あの娘に疑われていない時点で、奴らは腕の立つ一般人の振りをやり遂げた。 しかも、この街には白銀聖闘士たちが居たというのに気付かれていない」 美穂が街に居るかもしれないという前提で動いていた白銀と青銅の聖闘士たちは不振な人物と接触する事なく、気配も感じてはいなかった。 しかし置き手紙は要注意場所としてマークされていたホテルに残されていたのである。 「別に闘士自身が動く必要はないが、協力者がいる組織だとしてもやっかいだな」 既に戦いの火蓋は切って落とされていたのだろう。 カノンは森の中で会った少年を思い出す。 そこへアフロディーテとシュラがやって来た。 「何か分かったか?」 デスマスクは無駄な質問をしてみる。 「相手が完全に気配を消したという事がわかった」 修理工場に車は残されていたが、グラード財団の持ち物であることくらいしか判明していない。 美穂の前で彼らは財団の関係者を装っていたので、何を調べても財団関係者がやったという証拠にしかならないという事だった。 「女神からは明日の午前中くらいに聖域に到着させろと言われているが、横槍が入る前にホテルから移動した方がいい。 場合によっては彼女が眠っているとき限定で瞬間移動も使う」 一般の少女が同行している時に、闘士たちの戦闘が発生したなどというのは絶対に避けなくてはならない。 それは緊張を強いられる隠密行動を意味する。 「それなら俺は先に青銅聖闘士たちと共に聖域へ戻る」 デスマスクは椅子から立ち上がった。 「それでは俺も……」 そう言ってカノンが立ち上がった時、 「私も急いで双魚宮の様子を確認しなくてはならない」 と言ってアフロディーテがさっさと席から離れてしまった。 「ちょっと待て!」 カノンは慌てて二人を追いかけようとしたが、既に二人の姿は無かった。 「俺も戻っていいか?」 海龍の海将軍の問いに、山羊座の黄金聖闘士は首を横に振った。 |
ギガントマキア終了後、海界では海闘士たちがデスクィーン島の周辺海域について綿密な調査を行っていた。 神話に名高い巨人族の出現。 しかも海底神殿にやって来た者までいる。 その余波がどれほど海に影響を与えるのか、誰一人として予測が出来ずにいた。 そんな最中に海皇がジュリアンを依代にしたまま行方不明となったのだ。 海将軍たちの精神的疲労は徐々に積もってゆく。 「セイレーン」 スキュラの海将軍であるイオは海底神殿の廊下で同胞を呼び止めた。 「なんですか?」 「一つ気になったんだが、ジュリアン様はシードラゴンを知っているのか?」 その問いにソレントは表情を硬くする。 イオは構わずに言葉を続けた。 「ポセイドン様のままで聖域にいたりすればシードラゴンが見つけても話は通じるが、万が一ジュリアン様の状態だったりしたら……」 そもそも海皇ポセイドンが聖域に居るのかすら不明だが、彼らが推測する一番確率の高い移動場所は聖域だった。 孫娘である女神パラスと女神アテナの間には何らかの繋がりがあり、海皇自身も気にかけていることは判っていたからだ。 ただ、実際問題としてジュリアンが聖域に戻った場合、今度は彼がソレントを探す行動を起こすかもしれない。 「聖域に行ってきます!」 ソレントは手に持っていた書類をイオに渡すと、そのまま外へと駈けだした。 「何かあったのか?」 バイアンに話しかけられて、スキュラの海将軍は苦笑した。 |