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神速 4

童虎は水晶に囲まれた教皇の間を見て回った。
外の光が差し込むと、部屋の中で透明な鉱石が輝く。
そこは非常に幻想的で、別世界のような印象さえ受けた。
「これはまた綺麗じゃのう」
彼はのんびりと周囲を見て回る。
何しろシオンは先にスターヒルの方へ行ってしまったので、自分の行動を叱責する人間が居ない。
ところが彼の予測よりも早く、シオンがスターヒルから戻ってきたのである。

そしてシオンは厳しい表情だった。
「どうしたんじゃ?」
童虎は親友の様子に不安を覚えた。
「体力不足でスターヒルに登れなかったのか?」
しかも一言多い。
シオンは反射的に友人を殴りそうになってしまった。
しかし、彼は強引に冷静さを取り戻す。
「スターヒルで一瞬だけ小さな星が見えた」
その言葉に童虎は首を傾げる。
「昼間にか?」
「何かがこの聖域にやって来るのかもしれない」
それがどのようなもので女神や聖闘士たちにどんな意味をもたらすのか。
悩んでいる親友を見て、童虎はある事を思い出した。
「そういえば、ペガサスの幼馴染みが来るかもしれないぞ」
「何の話だ」
「お主が寝ている間に起こった出来事じゃ。
どうも得体のしれない者たちがペガサスの幼馴染みを連れ回していたらしい」
その話自体はシオンも知っている。
だが童虎が大まかな事情を説明すると、彼は黄金聖闘士と海将軍が派遣されたという事に首を傾げた。
「随分、大げさだな」
「しかも女神は少女が聖域に来ることを望んだ場合は、連れてくるようにとまで言ったらしい」
その時、シオンの心臓は大きく脈打った。
彼の脳裏に華奢な東洋人の少女が蘇る。
二百年以上前に起こった聖戦の後、海辺で出会った少女。
スターヒルで見た星。
(彼女は東へ行くと言っていた)
何かを思い出しそうなのだが、断片的な映像のみがフラッシュバックのように現れるだけだった。
「童虎。先に戻る!」
あっと言う間に見えなくなった親友の様子に、今度は童虎の方が首を傾げてしまった。


「星矢ちゃん。まだ怒っているの?」
再びバスに揺られホテルに戻った美穂は、寝室に入ると直ぐに別の服に着替えた。
山の中を動いたので土や木の葉などがくっついたりした為である。
隣の部屋では幼馴染みがふてくされていた。

(何か腹が立つ……)
フロントには美穂宛の手紙が残されていた。
星矢は、それが気になって仕方がない。
差出人は日本から彼女を護衛していた少年からのもの。
筆跡から美穂が判斷したのだから星矢が疑っても仕方のない事だが、それを受け取ったときの彼女は嬉しそうな顔をした。
「すごくいい人よ」
美穂はそう言いながら手紙を読む。
それが星矢を苛立たせた。
中身を見せてもらったが、怖がらせた事への詫びと目的の人物に引き合わせる事が出来て安心したと言う事が簡潔に書かれていた。
そして最後には、彼らが絵梨衣の所へ連れて言ってくれるので安心してくださいという言葉で〆られていたのである。
この時、傍にいた黄金聖闘士たちと海将軍は何も言わなかった。

着替え終わった美穂が部屋から出てくる。
「でも、本当にびっくりしちゃった。
絵梨衣ちゃんとジュリアンさんが星矢ちゃんの知り合いの人の所に助けられていたなんて、すごい偶然だね」
「俺もあの時は驚いた」
星矢は彼女に疑われないように話を合わせる。
美穂はその様子に気付いてはいない。
「それに星華お姉ちゃんにも会えるなんて夢見たい」
彼女の言葉に星矢は胸が熱くなった。
「一番最初に会わせるよ」
「約束だからね」
その笑顔を星矢は可愛いと思った。