童虎は水晶に囲まれた教皇の間を見て回った。
外の光が差し込むと、部屋の中で透明な鉱石が輝く。
そこは非常に幻想的で、別世界のような印象さえ受けた。
「これはまた綺麗じゃのう」
彼はのんびりと周囲を見て回る。
何しろシオンは先にスターヒルの方へ行ってしまったので、自分の行動を叱責する人間が居ない。
ところが彼の予測よりも早く、シオンがスターヒルから戻ってきたのである。
そしてシオンは厳しい表情だった。
「どうしたんじゃ?」
童虎は親友の様子に不安を覚えた。
「体力不足でスターヒルに登れなかったのか?」
しかも一言多い。
シオンは反射的に友人を殴りそうになってしまった。
しかし、彼は強引に冷静さを取り戻す。
「スターヒルで一瞬だけ小さな星が見えた」
その言葉に童虎は首を傾げる。
「昼間にか?」
「何かがこの聖域にやって来るのかもしれない」
それがどのようなもので女神や聖闘士たちにどんな意味をもたらすのか。
悩んでいる親友を見て、童虎はある事を思い出した。
「そういえば、ペガサスの幼馴染みが来るかもしれないぞ」
「何の話だ」
「お主が寝ている間に起こった出来事じゃ。
どうも得体のしれない者たちがペガサスの幼馴染みを連れ回していたらしい」
その話自体はシオンも知っている。
だが童虎が大まかな事情を説明すると、彼は黄金聖闘士と海将軍が派遣されたという事に首を傾げた。
「随分、大げさだな」
「しかも女神は少女が聖域に来ることを望んだ場合は、連れてくるようにとまで言ったらしい」
その時、シオンの心臓は大きく脈打った。
彼の脳裏に華奢な東洋人の少女が蘇る。
二百年以上前に起こった聖戦の後、海辺で出会った少女。
スターヒルで見た星。
(彼女は東へ行くと言っていた)
何かを思い出しそうなのだが、断片的な映像のみがフラッシュバックのように現れるだけだった。
「童虎。先に戻る!」
あっと言う間に見えなくなった親友の様子に、今度は童虎の方が首を傾げてしまった。
|