「これでカシオペアが居たら、エチオピア王家の再来ね」 沙織の言葉に三人の聖闘士達は笑うに笑えなかった。 彼女は人を近づけさせないようオルフェとアルゴルに命じる。 「ダイダロスと瞬を呼んだのはジュネに関しての事です」 いきなりの本題に、瞬は息をのむ。 「彼女は女神の試練において、私たちに道を作ってくれました。 しかし、本来なら聖闘士が呪術に関わることは無いはずです」 沙織はいったん言葉を切って二人の聖闘士の顔を見た。 「それについての理由はジュネに直接聞かないと分かりません。 彼女を生きたまま私の元へ連れてきなさい」 この命令にダイダロスは驚く。 「女神アテナ。ジュネは……」 しかし彼が発言することを、沙織は許さなかった。 「全てはジュネ本人から聞きます。 ダイダロスは弟子の誰かを一人だけ追跡者に選びなさい」 「一人ですか」 「そうです」 確実に捕らえるのなら、複数の人間を捕縛に向かわせた方が確実だった。 何しろジュネは青銅ランクとはいえ聖闘士なのだ。 ただ、その闘士が何らかの理由で反抗するような行動に出れば捕縛はかなり難しくなる。 そうなると生きたまま女神の許に連れて行く為には、白銀クラス以上の聖闘士を選ぶ必要があった。 すると、瞬が直ぐさま立候補したのである。 「沙織さん。僕が追跡者になる。 僕はジュネさんの素顔も知っている!」 その言葉がどんな意味なのか気付き、瞬は顔を赤くした。 「ダイダロス。アンドロメダは先の聖戦で最後まで私と共に居ました。 その者の願いを聞き届けることを、贔屓と思いますか」 沙織の問いにダイダロスは言葉を失った。 だが、女神は自分の返事を待っている。 彼は弟子の不安げな表情を見た後、静かに答えた。 「……思いません。 むしろ神聖衣の所有者が追跡者となれば、聖域内外で異論を唱える者は出ては来ないと思います」 「では、ジュネに関してはアンドロメダに一任します。 ダイダロスは、この事を他の弟子たちに伝えなさい。 そして妨害をする者が現れたときのみ、一門が力を合わせて邪魔者の方を排除しなさい。 私は侮られるわけにはいきません」 その厳しい眼差しに、ダイダロスはただ頭を下げた。 |
彼は自分の弟子たちに女神の命令を伝えるべく部屋を出る。 (……ジュネは瞬に素顔を見せたのか) そして瞬もまた、誰よりも先に彼女を見つけようとしていた。 もしかして、まだ救いが残されているのだろうか。 ダイダロスは暗闇の中で僅かに光る希望を見たような気がした。 |
瞬は沙織に残るよう言われたが、この意外な展開に驚きを隠せなかった。 「沙織さん。ありがとう」 しかし、沙織は先程とはうって変わって、困ったような表情になっていた。 「沙織さん?」 「……瞬。 ジュネに会うのは怖くないのですか」 質問の意外な内容に瞬は驚いた。 だが、彼は直ぐに答える。 「他の人からジュネさんの事を聞かされる方が怖いし嫌だ。 だから、どんなに辛くても逃げたくはない」 すると沙織は瞬に背を向けて、窓に近づいた。 「では、私も恐れずに会うことにします」 その呟くような言葉に、瞬は意味がわからず首を傾げてしまった。 |