静かになった森にカノンは佇む。 |
社殿の一室で、紫龍は春麗から飲み物を受け取る。 デスクィーン島から戻った後、彼は骨が軋むかのような痛みに悩まされていた。 とにかく身体を動かすのが辛いのである。 だがそれ以上に、先程老師と行った会話が衝撃的で椅子から立つ気力が失われていた。 「神代のギガントマキアで巨人クリュティオスを倒したのは、女神ヘカテじゃよ」 師匠の言葉が、頭の中でグルグルと回る。 「紫龍。大丈夫? 気分でも悪いの?」 「大丈夫だ。ちょっと考え事をしていただけだ」 「そう?」 「それより、この飲み物は何だ?」 馴染みのない香りに、紫龍は首を傾げる。 「老師は薬湯と仰ったわ」 そう言われると紫龍としては飲まないわけにはいかない。 「……」 彼は意を決して、薬湯を口にしたのだった。 |
別の部屋では、瞬が部屋に置かれたカップを見つめていた。 薬湯を持ってきてくれた兄弟子の言葉に、彼の思考が停止寸前に追い込まれたのである。 その兄弟子は、場合によっては自分たちの手でジュネを葬ると言ったのだ。 |
アンドロメダ島で起こった粛正が女神の試練により聖闘士たちが蘇生し、事実上無かった事となる。 魚座の黄金聖闘士が行った殺戮も、ジュネが身内の亡骸を埋葬したこともあり得ない話となった。 瞬ですら話を聞いただけで現場を見てはいない。 この世の地獄を見ても、全てが悪い夢を見たの一言で終わってしまうのだ。 彼らはジュネが理性を保てなくなった時の事も考えて、結論を出したのである。 そしてジュネは一時的にでも行方不明となり聖域の招集を蹴った。 反逆の道を彼女が選んだとは考えにくいが、その事実はジュネを追い詰める為の理由とされるだろう。 それもまた彼らが焦慮に駆られる理由の一つだった。 秘密裏に聖域から追手が放たれるのを避けるには、自分たちが動くしかない。 彼らにとってそれが、妹弟子である彼女に出来る事だった。 |
兄弟子が部屋を出て行った後、瞬はしばらく動けずにいた。 「……」 彼女の事を想うと胸が痛くなる。 (でも僕はジュネさんに会いたい……) 兄弟子たちがどんな判斷を下すのかは知らないが、瞬は従う気はなかった。 むしろ彼らよりも早く見つけようと決意する。 それに彼女の命を兄弟子達が握っているなど絶対に納得出来ない。 (ジュネさんを守らないと!) 瞬は急いで部屋を出る。 とにかく兄弟子たちの動きを封じるのが先決だと、彼は思った。 |