「美穂ちゃんに何をするんだ!」 星矢が男の腕を掴む。 振り下ろされようとした短剣は、そのまま男の手から地面へ落ちた。 彼はそのまま相手を殴り飛ばした。 「星矢ちゃん」 美穂は幼馴染みが何故此処にいるのか分からず、彼の背中を見続けた。 「美穂ちゃん、もう大丈夫だ」 彼女を背に庇いながら、星矢は男の様子を見る。 相手は闘士では無さそうだし、逆に美穂の前で残酷な場面を演じたくはない。 すると星矢はいきなり大木の後ろから現れたデスマスクに、美穂を村へ連れて行けと言われた。 「でも、こいつは美穂ちゃんを……」 「悪いようにはしない。とにかくお前は彼女を休ませてやれ」 そういうデスマスクの目つきには、冷酷な光が宿っていた。 こうなると星矢としては、デスマスクがやろうとする事の方を美穂に見せたくはない。 ただでさえ彼女は、自分にしがみついて震えているのだ。 「わかった」 星矢は美穂を軽々と抱き上げて村へと戻る。 方向が少し違うように思えたが、蟹座の黄金聖闘士は訂正する気はなかった。 |
「……」 デスマスクは足下に転がってる短剣を拾う。 かなり重さのある短剣だった。 「お前も早く逃げた方が良い」 彼は不敵な笑みを浮かべる。 星矢に殴られた人物は驚いたような顔をした。 助けてくれるのかという問いに、デスマスクは頷いた。 「そのかわりに、この短剣は貰っておく。 ぐずぐずしていると仲間から、俺に買収されたと思われるぞ」 早く行けと言わんばかりに、デスマスクは相手を追い払う。 相手は転がるように森の中へ消えたのだった。 森の中を一陣の風が吹く。 デスマスクは強烈な敵意が消えた方向を見た。 多分、闘士と思える者は逃げた男を追ったのだろう。 「ヤツは逃げ切れないな」 蟹座の黄金聖闘士は大木の陰にいた仲間に話しかけた。 そこにいたのは気配を消していたシュラ。 デスマスクは彼に短剣を渡した。 それは青銀色の短剣で、何処か聖域に保管されている黄金の短剣に似ている。 「面倒な組織が動いているようだな」 「持久戦を覚悟するしかあるまい」 この時、二人は人間の叫び声を聞く。 「終わったな」 緊張が解けたのかデスマスクは背伸びをする。 シュラは短剣を見た後、空を見上げたのだった。 |