それは美穂にとって意外な展開だった。 可愛らしい花を咲かせる植物の自生地があると言う事で、美穂は護衛の少年と村から少し離れた場所に向かって歩いていた。 すると二人の前を旅行者らしい人たちが居る。 だが、彼は美穂に村へ戻ろうと言い出したのである。 二人が引き返そうとした瞬間、背後には昨日まで一緒にいたグラード財団の重役が怒りの形相で立っていた。 青年は美穂を軽々と抱えると、彼らの包囲網を突破して森の中へと入る。 どう見ても護衛の少年とグラード財団の重役は反目している。 彼女は何が起こったのか分からず、茫然としてしまった。 同じ頃、星矢は止まることなく森の中を走り続ける。 黄金聖闘士たちは星矢の所在を確認しながらも、少し離れた所に得体の知れない気配を察知した。 |
森の中に出来ている獣道を、少年が美穂を抱えたまま走る。 傍目から見れば、少年の行動は一人の少女を抱えて動ける早さではない。 だが、抱えられている美穂は恐怖のあまり目をつぶってしまっているので、それすらもよく分からなかった。 彼は急に立ち止まると、美穂に大木の傍で待っているよう告げた。 ここなら、森の中で迷子にさせる心配はないという理由だった。 美穂は大木を見上げる。 その直後、遠くで銃声が聞こえてきた。 追っ手なのか猟師が居るのか、二人には分からない。 護衛の少年は美穂に、自分の仲間が直ぐに来ると言うと再びその場から離れる。 「星矢ちゃん……」 一人になった美穂は大木に寄りかかりながら幼馴染みの名を呟いたのだった。 (美穂ちゃん。無事でいてくれ!) 星矢は見晴らしの良い場所に出た時、ようやっと立ち止まった。 そして周囲を見回す。 少し離れたところにある、周辺の木々よりも一回りくらい大きな樹木が目に付いた。 (あっちだ!) 星矢は再び走る。 やたらと胸騒ぎがしてならなかった。 |
(あの時は海将軍達が邪魔をした。 今度こそ仕留めてみせる。 あの方に害を成す武神は、滅んで当然なのだ) |
薮が動いた。 美穂は最初、護衛の少年が戻ってきたのかと思った。 しかし、実際に現れたのは短剣を手にしたグラード財団の重役。 彼はブツブツと何かを呟いている。 その異様な雰囲気に、美穂は彼が味方ではなかったのだと察した。 「来ないで!」 彼女は慌てて駆け出す。 しかし、足がもつれて直ぐに転んでしまった。 「星矢ちゃん!」 とっさに目をつぶって、この場に居もしない幼馴染みの名を叫ぶ。 その瞬間、美穂の耳に懐かしい声が聞こえてきたのだった。 |
アフロディーテは自分が追跡している敵が闘士である事に気がつく。 しかし向こうに戦闘を行う気がないらしく、むしろ自分が誘き出されているように思える。 (まさか!) 彼はある可能性に気が付き、同胞に連絡を取る。 するとデスマスクが直ぐに動けると返事が来た。 敵は聖域と開戦する為の大義名分を作ろうとしているのではないか。 それにしては回りくどい気がしたが、相手の事情を知っているわけではないので彼は自分の勘に従うことにした。 |