「女神アテナ。どうやらチャンスが巡ってきたようです」 ダイダロスの言葉に、一斉に緊張が走った。 「報告しなさい」 沙織はいったん地図から目を離すと、彼の言葉を待った。 「少女を乗せていた車が故障したそうです」 ちょうど修理用の部品がないという理由で、とある町に足止めしているという。 しかし替えの車が用意される可能性があるので、直ぐに対応してほしいと書かれていた。 「まさかダイダロスさん、誰かに言って仕掛けたのか……」 那智の呟きに星矢は驚いた。 報告に記されている場所を地図で確認すると、とある大都市だった。 だが、沙織はその町に行くのは白銀聖闘士数名と美穂の顔を知っている市・檄・蛮の三人と限定した。 しかも、どちらかというと大都市に向かう白銀聖闘士たちは、敵の正体を探る任務を重要視された。 この為、市たちのほうが美穂らしい人物を見かけた時に本物かどうか見分ける為の要員となった。 「大都市なら市や檄がいても目立つような環境じゃないが……」 納得出来ないわけではないが、重要視していないような印象を受ける。 「何でだよ!」 星矢は怒鳴ったが、沙織はさして動じずに答えた。 「もしかすると裏をかかれる恐れがあるからです」 その言葉に、部屋に居る全員が黙る。 「彼らの移動は大都市をあまり利用していません。 これは美穂さんに逃げられるという警戒かもしれなせんが、初めての海外で美穂さんが彼らから離れるとは考えにくい事です。 こちらが動く事を予想しているなら、向こうも美穂さんだけは周辺の場所に移す筈です」 沙織の言葉を補足するように、再びダイダロスが地図を指さす。 「ならば、少女はここにいるかもしれません」 そこは山間の小さな村だった。 「どういうわけだか、彼らは山沿いの村を選んでいる傾向があります。 例え海側の方がずっと便利だという状況であってもです」 彼の説明に沙織は頷く。 (向こうは海に出たら邪魔が入るのが分かっている……) 彼女はその理由が分かっていたが、説明する気はなかった。 そして選ばれた聖闘士たちが、美穂の奪還に動く。 チャンスは一度だけ。 しかし相手の実力に不明瞭な点が多いのが、何とも不気味だった。 |
その小さな村の食堂は、村の外れにあった。 人家がまばらな場所だったが、美穂は何処か懐かしい感じがした。 美穂は周囲を見回すと、少し離れた隣の家の玄関先で寝そべっている黒い犬を見つける。 大きい犬で子供を身ごもっているらしい。 しばらく犬の方を見ていると、老婆が家から出てきた。 彼女は黒い犬と共に美穂の方へやってくる。 しかし、何か話しかけるわけでもなく、老婆と犬は通り過ぎて行く。 その時、護衛の少年が自分を呼ぶ声に美穂は気が付いた。 どうやら食堂はまだ準備中なので、少し周辺を散歩して時間を調整しようと言うのだ。 断る理由もないので、美穂は彼の提案に頷く。 少年はポケットから観光マップを取り出すと、彼女に何処へ行きたいか尋ねた。 |