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奪回 2

「美穂ちゃんが連れ去られたって、何で俺に黙っていたんだ!」
幼馴染みの身に起こった事件を聞いた星矢は、もの凄い剣幕で怒りを露わにした。
邪武が羽交い締めにして彼の動きを押さえる。

本来ならば美穂の奪還に関しては、他の青銅聖闘士の協力も欲しいところだった。
何しろ聖闘士たちに写真でしか見たことの無い東洋人を見つけ出せと言っても、上手くいかない確率が高い。
しかしギガントマキア直後ということで、瞬と氷河は未だに眠り続けており一輝と紫龍も無理はさせられない。
同じように星矢も疲労が激しいだろうと言うことで、彼らは関わらせない方が良いと判斷されていた。

沙織は何も言わずダイダロスから渡された記録を読む。
「沙織さん!」
この様子に、オルフェが星矢の前にやって来た。
「落ち着くんだ、ペガサス。 ギガントマキアを終わらせた直後で、彼女の救出に向かうのは危険だ」
しかし、星矢は絶対に行くと言って聞かない。
オルフェはデストリップ・セレナーデを使おうかと思ったが、それは最後の手段にする事にした。
大事な少女の身を案じる気持ちが分かるからだ。
「向こうは聖域も聖闘士の事も判って、彼女を連れ回している。
闇雲に接触してミホさんを危険に晒したいのか!」
オルフェの言葉に星矢は暴れるのを止める。
「美穂ちゃん……」
「とにかく向こうの様子はこちら側の関係者から逐一連絡が来るが、彼らは少女に対してかなり気を使っている」
「だから、そいつらは何者だ!」
「それが分かれば、こちらが先回りしている。
とにかく彼女の傍には手練れが居て、何人もが返り討ちに遭っている状態だ。
迂闊なことをして彼女に怪我を負わせるわけにはいかない!」
それでも何か言いたげな星矢に、邪武が怒鳴った。
「星矢、俺たちを信用しろ!」
「……」
「とにかく頭を冷やせ」
邪武は星矢の腕を掴むと、無理矢理部屋から出た。
星矢は為す術もなく、部屋から連れ出される。
「いったい誰が星矢に言ったんだ」
那智は呆れたように口にしたが、ダイダロスとオルフェは何も言わなかった。

『結果がどうであれ、黙っていてはペガサスが納得しない』
そう考えた人物が、個人的な判断で星華に美穂の事を教えたと、彼らは容易に想像がついていたからだ。
そして、その通りに星矢は興奮状態になっている。
しかし沙織もオルフェたちも、星矢に美穂の事を教えた人物をわざわざ探す気にはなれなかった。

部屋から出た直後、星矢は膝に力が入らなくなり廊下にしゃがみ込んでしまう。
「そんな調子で助けに行くつもりだったのか!」
邪武は星矢を掴んでいた手を離す。
二人は廊下の壁に寄り掛かった。
星矢は何かを考えこんでいて、一言も喋らない。
「……とにかく、美穂を助けに行きたいのなら一人で勝手に熱くなるな。
お前が考える程、状況は悪くなっていない筈だ」
すると星矢は疑わしそうに邪武の事を見上げた。
「何でそんな事が言えるんだ」
「あの人の指図を一晩中見ていたら、お前も納得できる」
「あの人?」
「ダイダロスさんの事だ」
邪武がそう言った時、一人の雑兵が二人の前を通り部屋に駆け込んできた。
何事かと思い、星矢と邪武も部屋に入る。
彼はそうそうたるメンバーに緊張したが、ダイダロスが近づいてきたので彼に素早くメモを渡す。
そして再び一礼して部屋を出たのだった。