INDEX
   

帰還 2

社殿内に女神と黄金聖闘士たちが入ってきたので、ダイダロスは雑兵たちに軽傷の者は別の場所に移動するように伝えた。
そしてたまたま聖域内の様子を報告しに来たアステリオンに、ある事を依頼する。
彼は少し怪訝そうな表情になったが、断る理由も無いのでダイダロスの依頼を了承する。
(知識を得られるだろうか?)
アステリオンが立ち去った後、ダイダロスは再び社殿の奥にある部屋に向かった。
別の場所では弟子の瞬が意識を失っている為、ベッドに寝かされている。
だが、彼は様子を見に行こうとはしなかった。

建物の中を埋めつくすかのような結晶は、数時間前まで黄金聖闘士の力ですら砕けなかったという説明が疑わしい程、カミュの手により簡単に砕かれた。
(……)
静かな人馬宮。
その一室で黒い布にくるまれた少女を見つけた時、カミュが真っ先に思ったのは間に合わなかったのではと言う事だった。
しかし、上体を抱き上げてみると、ただ眠っているらしく呼吸が規則正しい。
「レダは無事か」
いつの間にか来ていたアフロディーテの言葉に、アルデバランは首を傾げたが水瓶座の黄金聖闘士は頷いたのだった。

とにかくアルデバランに絵梨衣を連れていって貰う。
それを見送った後、カミュは壁により掛かったまま腹部を押さえた。
思ったよりも巨人族から受けた傷は回復しにくいものらしい。
「カミュも下に戻れ。 後の黄金宮は私が使えるようにしておこう」
そう言ってアフロディーテは床に置かれていた武器を手に取る。
カミュは魚座の黄金聖闘士をじっと見た。
「その後、何処へ行くつもりだ」
意外な言葉にアフロディーテは返事が出来ない。
「何の事だ」
「……いい。つまらない事を言ってすまなかった」
カミュは重い体を引きずりながら部屋を出ようとした。
アフロディーテが彼に肩を貸す。
「双魚宮にあるバラの様子が見たいから、明日までに傷を治しておけ」
その無茶苦茶な要求に、カミュは分かったと返事をした。

グラード財団に潜んでいた伏兵。
沙織は敵が容易ならぬ存在なのだということを、オルフェの報告からハッキリと確信した。
(早く美穂さんを見つけないと……)
彼女は黄金聖闘士たちに待機を命じると、邪武たち青銅聖闘士と共に別の部屋へ移る。
場合によっては美穂を知っている彼らに動いて貰う事になるかもしれない。
(美穂さんを安全に保護するには、星矢が動ければ一番良いのだけど……)
だが、当の本人は武神の力を維持し続けた負荷の大きさに、気を失っている状態である。
武神の力に酔い、暴走しなかっただけ良しと思わなくてはならない。
例え運良く意識を取り戻しても、敵対している者達と戦える体力が残っているだろうか。
そう考えると、星矢の存在は無視して奪還する事を考えるべきだと沙織は判断した。
それに美穂が連れ去られた本当の理由を、沙織もまた彼ら聖闘士に言う事は出来ない。
女神パラスは忘れられた存在なのだ。
忘れられてはいないということを他の者達に証明するわけにはいかない。
そう考えながら、沙織は美穂に会う事に躊躇いを覚えた。
彼女の傍にいる者達が聖域や聖闘士について余計な事を言っているのではないのか。
(今度居なくなられたら……)
沙織は自分の身体が震えている事に気がついた。

(沙織お嬢様……)
書類を握りしめながら何か思い詰めている沙織に、邪武は言葉をかけることが出来ずに居る。
彼は自分の無力さが悔しかった。


聖域の厳戒体制が解除される。
星華は老婦人と共に避難所から家に戻ろうとしていた。
この時、二人は白銀聖闘士のアステリオンに呼び止められる。
彼が探していたのは老婦人の方だったが、話の内容から彼女は弟の帰還を知った。
「私も連れていってください」
星華の頼みに老婦人は頷く。
そして二人は十二宮から離れた場所にある社殿へ向かったのだが、そこは異様な緊張に包まれていた。