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帰還 1

「これでしばらくは地母神ガイアも大人しいだろう」
夜の女神の神殿にて、死の神タナトスは崩壊する黒の神殿を見ながら可笑しそうに笑った。
「頼みとするギガースたちが全滅した。これ以上女神アテナを刺激すれば、忘れられた女神を戦場に引きずり出すことになる。
俺としては、そっちが楽しみだがな」
兄弟神の発言に、眠りの神ヒュプノスが眉を顰めた。
「戦を唆す発言は止めろ。 言霊は制御が難しい」
「……」
「海の至宝には大人しくしていて貰う」
彼の言葉に、タナトスはつまらなそうな表情をする。
「ところで天上界の方への説得に時間がかかったみたいだが、手こずったのか?」
死の神の問いにヒュプノスは簡潔に答えた。
「説得は一撃で済んだが、向こうのお詫びに付き合わされた」
「……」
この時、二柱の神は来訪者の足音に気が付く。
「会わねばなるまい」
彼らには、それが誰なのか分かっていた。


聖域に再び朝が訪れる。
巨人族との戦いを終えた女神とその聖闘士達を、聖域の人々は喜びに満ちた表情で迎えた。
だが、デスクィーン島におけるギガントマキアは闘士たちに色々な爪痕を残したのだった。

女神の帰還を聞き、ダイダロスは聖域内の報告を兼ねて社殿の別部屋へ向かう。
だが、聖域にたどり着いたばかりの聖闘士たちは一様に厳しい表情をしている。
彼は瞬時に、まだ何か問題が残っているのだと気が付いた。
確かに意識を失って同胞に担いで連れてこられた聖闘士もいたが、十二名居たはずの黄金聖闘士が十人しかいないのである。
双子座と射手座の不在。
彼は女神の表情からも、それが良くない結果なのだと悟った。


そしてカミュは沙織から特別な任務を与えられる。
それは人馬宮に閉じ込められた少女の救助だった。

カミュは氷付けという言葉にふさわしい十二宮と神殿を見て、言葉を失った。
朝日に照らされて建物は神々しいまでに光り輝いていたが、これでは建物自体が使用不可能である。
「これを私がやったのだな」
彼の言葉に一緒に来ていたアルデバランが頷く。
「カミュ。詳しいことはあとで幾らでも説明する。
今は人馬宮までの道を作ってくれ」
水瓶座の黄金聖闘士は、手に持っている天秤座の武器に自分の小宇宙を込める。
そして彼の一振りにより、白羊宮まで蔓延っていた水晶にも似た結晶は軽く清らかな音を立てながら霧散した。

女神の命令を聞いた時、カミュはそれが異世界で会ったエリイなのだと気が付いた。
氷河は気を失う直前まで彼女の事を気遣っていたが、神の力を背負った少年の体力は限界に近づいている。
何しろ同じ様な条件下のペガサスとアンドロメダも、脱出した直後に意識を失ってしまったのだ。
そして自分もまた、巨人族との戦いで怪我を負っている。
(だからといって、他の者に任せるわけにはいかない)
理由の一つは、氷の牢獄をつくったのは自分だという事。
もう一つは異世界で守りきれなかった少女がどうなったのか、自分の目で確認したかったからだ。
そしてカミュは二回の攻撃で、人馬宮の入り口まで氷を消滅させたのだった。

「さすがだな」
アルデバランは人馬宮に向かいながら、同胞の完璧な力配分に驚いていた。
呪術の影響下にある氷の硬度が分からないので、彼は力を抑えながら前へ進むしかないと思っていたのだ。
時間との闘いを覚悟していたのに、同胞はたった二回で目的の場所まで道どころか空間の確保までやり遂げたのだ。
「エリイはこの中だな」
この言葉にアルデバランは、カミュは少女と知り合いなのかと思った。