INDEX
   

続・限界 5

ほぼ同じタイミングで黄金聖闘士たちは次々と問題の闘衣を破壊する。
大地のエネルギーはその中継装置を失い、暗黒宮全体に亀裂が走る。
そして建物の天井が一気に崩れた。

全ての建物で同じような現象が発生した。
神殿の壁に光が走り、強固に作られた氷の床は砕ける。
先程まで床はびくともしなかったのに、あっけない程だった。
そして氷塊は闇に吸い込まれるように落ちていく。
「わざわざ開ける手間がはぶけたな」
一輝はそう言ったが、下に向かって吹く風が非常に強い。
油断していると開いた穴へと引きずられそうになる。
「来るぞ」
星矢はそう叫ぶと、暗黒の世界に矢を向けた。
だが、正直言えば視覚では巨人の大きさも位置も分からない。
(向こうが何かに反応してくれれば……)
そう考えた時、突如として神殿内に光が降り注いだのだった。

「何が起こっているんだ!」
地上に居た闘士たちは強く吹く風と共に、雲が流れていく様子に驚いた。
先程まで雨が降っていたというのに、今度は星空が見えて流れ星まで確認できる。
「あれを見ろ」
一人の闘士が少し離れた場所を指さす。
そこは流れ星が落ちるたびに、呼応するように光るのである。
「星の矢が大地に吸い込まれている」
その言葉に周囲の闘士達は、なんとなく納得してしまった。

光の矢がタルタロスの穴に降り注ぐ。
細い鎖と氷で作られた床なので、光はなんの不都合もなく透過される。
この時、遙か下の方で何かが見えた。
だが、それでも範囲が広い。
するとその状況を察した氷河、一輝、紫龍の三人が、巨人に向かって自分たちの技を繰り出したのだ。
ただでさえ気温の低い空間に氷河の繰り出す膨大な凍気が巨人を襲う。
一輝と紫龍も連鎖的に攻撃。
彼らの与えた痛みにより、巨人は地の底から憎しみに満ちた目で上を見上げているのが分かった。


盲目の巨人の力を得ていないので、アルキュオネウスは自分の目で聖闘士達を確認してしまったのである。

「そこだ!」
星矢は矢を放った瞬間、それは風を巻き込みながら下に向かう。
周辺の光すら、矢の後を追うように動きを変化させた。
神殿の壁が火花を散らしながら壊れようとしたのは、その直後だった。
逆流したエネルギーはそのまま建物を崩壊させながら下へ流れ込む。

巨人は相手が自分の位置を確認出来た事に最初は驚いた。
だが、崩れていく身体についた氷が、光を受けてキラキラと輝いていたのである。
アルキュオネウスは膨大なエネルギーの前に、為すすべもなくタルタロスへとたたき落とされる。
巨人は武神達への呪詛を撒き散らした。
だが、それが誰かの耳にはいるような事は無かった。

そしてこの瞬間、黒の聖域は神殿から他の暗黒宮へと怒濤の如く崩壊したのである。