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続・限界 4

(もうすぐ終わる……)
アフロディーテは問題の闘衣を見て、そう呟いた。
黄金聖衣よりもグロテスクなそれは、既に力を抑えられたピラニアンローズにて闘衣の一部が台座に固定されている。
ただ、時折光る呪術の紋様により、まるで闘衣が生き物であるかのように見えた。
彼は何度か天秤座の武器を振って、その動きを確かめる。
ヘレネが女神アテナの保護下にいれば、ポリュデウケースも女神ネメシスも一応落ち着くだろう。
神代から続いた宿縁は、一応終わりを向かえようとしているのだ。

(……)
彼は不意に、アンドロメダの聖闘士の事を思い出した。
向こうはじっと自分の事を見て何か言いたそうだったが、こちらも特に話をする気はなかったので無視した。
どうやらダイダロスは、彼に何も言っていないのかもしれない。
「まだ問題は残っていたな……」
彼の脳裏に金色の長い髪を持つ女性聖闘士が蘇る。
(あれを放っておく事は出来ない)
自分が鍛えてしまったからこそ、彼女が敵にまわれば面倒なことになる。
(アンドロメダがどう動くかだ)
彼は薄く笑った。

「これ以上此処に居ては危険です」
黒の聖域の入り口でミーノスはそう言うと、沙織を軽々と抱き上げた。
「ミーノス!」
「女神アテナ。後は彼らに任せるのです」
そう言って彼はグリフォンの翼を広げる。
「全員、撤収せよ」
彼の号令と共に、冥闘士たちは春麗も連れて外へと移動する。

(魔鈴の奴!)
そう呟きながらシャイナも冥闘士たちの後を追う。
その直後、沙織たちの居た場所の岩盤が裂け、黒い煙が吹き出したのだった。

「ミロ。返事はいいからよく聞け。
全員がお前に合わせる」
デスマスクは蠍座の黄金聖闘士の返事も聞かずに言葉を終わらせた。
今のミロは巨人ガイオーンと闘っている為、仲間と共に時間調整をするゆとりがない。
とはいえ、他の同胞もあまり条件が良いとは言えなかった。

「さて、下手をすれば道連れだが、それもいいだろう」
彼は隣の部屋へと移動した。
その部屋は、黒い粒子を撒き散らす呪術の紋様が仄かな光を伴って浮かび上がっている。
中心には異形の蟹とも言える闘衣。
問題は呪術の影響で、デスマスクと天秤座の武器が部屋に入れないことだった。

ミロの目の前で、巨人ガイオーンは自分が身に纏っている闘衣の一部を武器へと変貌させた。
黒い防具は呪術の紋様を浮かび上がらせながら姿を変える。
そして相手の一撃が自分に襲いかかった時、彼の手には天秤座の剣が握られていたのだった。

互いに盾を持たずに剣のみで闘う。
時にガイオーンは覚えたばかりの技を簡単に繰り出すので、既に暗黒宮は半壊状態になっていた。
そして自分たちも神殿内部ではなく、その下に開いていた広い洞窟のような所に落ちてしまう。
だが、ガイオーンの様子からミロはこの場所にわざと落とされたことに気が付いた。
(地母神ガイアの力を得る為か……)
この時、彼はデスマスクからの連絡を聞いた。
(俺に向こうの言葉が分かるということは、この場所に妨害する性質のものは無いらしい)
幾度かガイオーンと剣を交える。
(むしろ蠍座の黄金聖衣も……)
脳裏にある事が閃いた瞬間、彼は巨人に対してリストリクションを放った。

ムウは仲間の一人が神々の闘衣を破壊するカウントダウンに入っていた事を知る。
彼はは剣をきつく握りしめる。
もう躊躇うことは許されない。
覚悟を決めるしかなかった。

洞窟で闘うミロの方でも、巨人は意外にも彼のリストリクションによって動きを封じられてしまう。
ガイオーンは驚愕の表情をしたが、ミロは何となくその理由が分かった。
「残念だが、この蠍座はお前と同じように地母神ガイアの影響下に居る。
貴様を守る呪術など利かない。どうあがこうとも無駄だ」
黄金聖闘士の言葉に巨人は目を見開く。
その瞬間、ミロは手に持っていた剣を振り下ろしたのだった。