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続・限界 3

一方、アルキュオネウスの方も上に上がれば上がる程、氷の壁が広がっている事に不安を覚えた。
このまま何の考えも無しに進んだとしても、母神から力が得にくい環境では一撃で武神を倒さねば自分の方がやられてしまう。
巨人は考えた末に、氷の壁を粉砕しながら上に上がることにした。
動きは少々遅くなるが、母神から力を得ながら上がった方が良いと判断したのだ。
彼は氷の壁を砕き、大地に身体を付けながら上へと移動する。
その時、氷の破片がアルキュオネウスの身体に付いたのだが、彼は気にもとめなかった。

最初は勢いよく吹き出した黒い煙も、徐々に拡散されていく。
アイオリアは再び黒い獅子の姿を探した。
すると問題の闘衣は、彼らから少し離れた所に移動していたのである。
それに何かの衝撃で再び力を得たかのように、その獅子の額には呪術の紋様が光っていた。
「面白い仕掛けだな」
アイオリアは武器を持ち直す。
「魔鈴。君は外へ脱出しろ」
しかし、彼女はあっさりと断った。
「頼む」
何度アイオリアが言っても、彼女は首を縦には振らない。
彼女の頑固さに、さすがのアイオリアも説得を諦めるしかなかった。

魔鈴はアイオリアの後ろ姿を見ながら、少しだけ困惑する。
「女神アテナの命令で此処にいる」
そう言えば、彼は直ぐに納得しただろう。
なのに、魔鈴は何故か言えずにいた。

今まで通り抜けた暗黒宮と違い、その建物はとても静かで穏やかな雰囲気を漂わせていた。

シャカは建物の一室に置いていった乙女座の黄金聖衣を、再び装着する。
この聖衣は大地の女神の影響を受けやすいらしく、今も身につけている方が身体が重く感じた。
(あれが素直に私の言葉を聞くとは……)
ヘレネを実の兄に会わせろと言った時、彼は一輝が反発すると思っていた。
だが、実際は一瞬硬直しただけ。
特に嫌だとも言わなかった。
(少しは物事を考えるようになったか)
シャカは武器を再び持つ。
他の同胞達の様子から、運命の時が刻一刻と近づいているのが分かった。

タルタロスに繋がる闇は依然として深く、中で蠢くものを完全に覆い隠す。

一輝もまた皆と同じように眼下の闇を見ていた。
本当は乙女座の黄金聖闘士が煩い事を言わなければ、サガにエスメラルダを会わせるつもりはなかった。
だが、シャカは彼女を見るとエリスと同じ事を言ったのだ。
向こうには何が見えているのか、一輝自身分は分からないし理解したくもない。
しかし、それがエスメラルダにとって意味のあることならばと、強引に納得した。
それがまさかポリュデウケースの妹の登場になるとは考えもしなかった。
では、自分を欺き彼女を捕らえた存在はの目的はヘレネなのだろうか。
それとも、もっと別の理由があるのだろうか。
(だが、どんな敵が来ようとも彼女を守り抜くだけだ)
一輝は神経を集中させて、巨人の気配を探った。