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続・限界 2

焼け付くような痛み。
カミュは先程、フリージング・コフィンで神々の闘衣を強制的に封じ込めた。
だが、どんなに小宇宙を高めても、アルキュオネウスから食らった傷は未だに痛む。
(……)
彼はゆっくりと透明な棺に近づく。
中に閉じこめられている闘衣は、まるで眠っているかのように静かだった。
ただ、時々呪術の紋様が、表面に仄かに光っていた。

傍には女神がいた。
仮面を被ってはいたが、アイザックには運命の女神の一柱である事が直ぐに分かった。
彼女は昔話を見せるという。

何処だか分からない場所に一人の闘士が立っていた。
アイザックはその人物を知ってはいたが、どう見ても彼ではないことも分かっていた。
「何故、俺に?」
すると彼女は頼みたいことがあるからだと答えた。
目の前で問題の闘士は、部屋の入り口で見張りをしていた雑兵を次々と気絶させる。
冷気系の技を使う事に、アイザックは特に不思議とは思わない。
そして、その闘士は部屋から一人の少女を連れ出した。

アイザックはその少女に見覚えがあった。
自分の記憶に間違いが無ければ彼女は亡くなっているはずだが、その少女は眠っているだけのように見える。
そしてクリュタイムネストラーと呼ばれた少女はブルーグラードの姫君に似ていた。
どうやら闘士は、彼女を聖域から連れ出すつもりらしい。
そこへ一人の人間がやって来た。
アイザックは闘士だと直感したが、武装してはいないのではっきりと断言が出来ない。
その人物は少女を抱いている青年に、早く逃げろと言う。
闘士の方も頷くと、そのまま夜の闇へと消えていった。

(アレクサー……)
アイザックは事の成り行きに呆然とした。
「何故、彼女を連れ去る必要があるのだ?」
すると運命の女神は、彼女を見つけて欲しいと言った。
一方的な依頼であり会話だったが、彼としては真相を知りたいと思ってもブルーグラードを巻き込むのは気が向かない。
他人の空似ということもあり得る。
しかし女神の方はアイザックの返事も聞かずに、その場から立ち去ってしまった。
さすがは女神エリスの姉妹だとしか言いようがない。
この時、彼の周囲を海の水が取り囲む。

「!」
アイザックは、心配そうにしている部下達の声で目を覚ました。
「デスクィーン島はどうなった!」
彼の第一声に、部下の一人が大まかな状況を伝える。
島は海底岩盤に亀裂が入っており、場所によっては海水が島に流れ込んでいると言う。
「わかった」
彼はそう言うと、もの凄い勢いで島へと駆け出す。

「アイザックの様子はどうだ?」
リュムナデスのカーサが地図を片手に様子を見に来た時、海闘士達は一斉に困惑の表情となった。

(悪い予感というのは的中するものだな……)
目の前には自分の拳を受けて、半分砕かれた神々の闘衣。
異形の神は、自分の似た形の存在を嫌悪し破壊しようとしたのである。
彼は咄嗟にスフルマシュを止めようとした。
だが、相手もまたシュラを得ようと近付いたのである。
闇の闘衣は黒い粒子を僅かに放ち、山羊座の黄金聖衣はそれに抗うように火花を散らす。
(取り込まれるわけにはいかない)
人を支配する防具とスフルマシュを同時に押さえなくてはならず、彼は危うい均衡を保つ事となった。