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続・限界 1

誰一人神殿から出ようとせずに緊張の時間は過ぎてゆく。
氷河は周囲を見回した。
今のところ氷に亀裂が入っている様子は無い。

自分たちの足下には不死身と言われる巨人が居る。
しかし、こちらから攻撃を仕掛けても当たる確率は果てし無く低い。
そして相手に自分の居場所と技の性質を詳しく教えてしまいかねない。
この時、氷河の脳裏に女神達の声が聞こえてきた。
ただし、二名のみだった。
彼女たちは氷河にアンドロメダの神聖衣が冥王の影響下にあるので、このチェーンもまた冥府の神の隠れ兜の性質を継いでいると説明した。
そして先程のように呪術絡みの攻撃には対応出来るので、今のうちに気温を下げ続けろと言うのだ。
(何かあるのか?)
しかし、女神達からの返事は無かった。

ほとんど崩壊した暗黒宮ではあったが、それでも部分的に呪術の光は残っており周囲を照らす。

「外れないのですか!」
ムウはシオンに駆け寄った。
だが、彼は首を横に振る。
「もう既に重さも感じなくなっている。 それに闘衣はお前から逃げ出そうとしている。
壊されると知っているからだ。
ならば、私が支配される前に切れ」
彼はそう言って壁に寄りかかる。
この時、二人の許に童虎の意識が届いた。

彼は自分の現状を二人に簡潔に伝え闘衣の姿を幻影で示した。
『おぬし達から見て、この闘衣は幾つの武器を潜ませて居ると思う?』
他の闘衣と違い、天秤座の黄金聖衣は武器を所有している。
それが試作品である神々の闘衣からの倣いであれば、それを破壊しなくてはならない童虎が一番タイミングを逃しやすい。
「長剣が二本に槍が四本に盾が二つ、あとは短剣が二本のように見えます」
ムウは動揺を抑えながら答えた。
するとシオンは、
「私も同じ意見だが、意図的に作られている突起が気になる。
吹き矢のような役目を持つのかもしれない」
と、弟子の言葉を修正した。
『それだけ分かれば十分じゃ。
ムウよ。万事休すと思っても、別な方から見れば打開策はあるものじゃ』
童虎はそう言って二人の意識から離れた。
ムウは天秤座の黄金聖闘士の言葉に驚く。
このような状態でも、自分の師匠を救う手だてがあるというのだろうか。
「その瞬間が来たら、絶対に躊躇うな」
シオンはそう言って目を伏せる。
彼らの周囲では、呪術の紋様が断片的に光っていた。

氷河の小宇宙により神殿内部どころか闇に向かって氷は広がり続ける。
どんどんと気温は下がるのだが、星矢は手を休めることなく矢を組み立てていた。
アルキュオネウスを相手にして、場所を移動するという選択肢はない。
ただ今は一秒でも早く完成させるのみ。
アイオロスのやり方を見ていた所為かもしれないが、とにかくケイローンの技術は半端でないくらい精密だった。
そして出来上がった矢は、確かに巨人相手なら威力が有るだろうという大きさになる。
「あとは巨人を見つけるだけだ」
しかし、氷の床から見える闇は深く、生き物の姿など見えない。
「とにかく気配を探そう」
どのようなエネルギーが神殿へ逆流するのかは分からないが、確実に仕留めるのなら巨人に当てた方が良いのは分かり切っている。
とはいえ、その気配すら神殿内に充満しているような状態なので、場所を特定するのは難しかった。