INDEX
   

限界 7

闇の色をした闘衣は、静かに部屋の中央に安置されている。
他の場所は先程の巨人との闘いで半壊に近いというのに、その部屋はほとんど壊れてはいなかった。
童虎は一目見た瞬間、それが本物である事を理解した。

(確かに天秤座の黄金聖衣に似ておる……)
だが、何か嫌な感じがして、彼はそれが保管されている部屋に入れなかった。
(もしも、あの闘衣もまた数々の武器を保有していたら……)
既に自分は闘衣を破壊しにやってきている。
そして人を支配する性質を持った闘衣が、大人しくしているとは思いにくい。
迂闊に動けばあっという間に支配されるか、装備されている武器で串刺しにされるだろう。
(専門家に問い合わせてみるか……)
このような場所で小宇宙を介した精神感応が上手くいくかは不明だが、童虎はとにかくシオンとムウに呼びかける。
童虎の寄り掛かっている壁からは、少しずつ黒い煙が漏れ始めていた。

不死身の巨人は兄弟たちの力を取り込みながら、上を目指す。
頭上にいる力ある者たちは動く気配を見せない。
彼は敵が自分の位置を確認できないのであろうと判斷した。

この身体は地母神ガイアがくれたもの。

大地のエネルギーに溶け込んでいる自分を見つけることは不可能。
アルキュオネウスは頭上に向かって先制の攻撃をした。
それは自分の身体に描かれている呪術の一つを使ったのである。

突風が上に居るものを切り裂く。

彼は小賢しい者たちが落ちる姿を見てやろうと思った。


アイオロスは自分が閉じ込められていた暗黒宮の中心に立つ。
この建物の中に設置されている闘衣の場所は、見当は付いていたがまだ実物を見てはいない。
本当ならこの場に居るべきではないのだが、彼にはどうしても確認したいことがあった。

そんなアイオロスのいる建物に、一人の聖闘士がやって来る。

(今までポリュデウケースが身につけていた闘衣は、偽物だったのだろうか?)
サガは自分が無事である事に疑問を感じていた。
彼は四つ目の暗黒宮に入った時、前方に一人の黄金聖闘士の姿を認めた。
懐かしい友が居る。
言葉を交わしたいが、その様な事をする時間はお互いにない。
二人はすれ違いざまに、お互いの手で相手の手を鳴らした。

『頑張れ!』

黄金聖闘士の地位に就いて日が浅かった頃、彼らは己に背負わされたものの重圧に潰されそうになった。
だからすれ違うときは互いを励ますように、このように相手にエールを送った。
この古い約束を忘れていなかった事に、サガもアイオロスも自然と笑みが零れる。
アイオロスはサガの方を振り向くことなく、神々の闘衣を見つける為にその場を離れた。
サガもまた、振り返らずに暗黒宮を駆け抜けたのだった。

下から吹く風が強まる。

星矢たちの居る場所に、下から強い力が加わった。
瞬はチェーンを握りしめる。
すると、彼のネビュラチェーンは幾つかの火花を散らした。
その光は神殿内部に広がり、周囲に描かれていた呪術の紋様をハッキリと映し出した。
それがどんな意味を持つのかは、呪術に詳しくない彼らには分からない。
ただ、瞬には何となくだが、冥王の隠れ兜の力が何かしらの呪術を無効にしたのではないかと思えた。

「瞬。大丈夫か!」
兄の声に、彼は平気だと答える。
この場合、神殿内に居る彼らの方が瞬には心配だった。