(さすがは巨人族と言うべきだろうか……) アルデバランは二番目の暗黒宮に到着した時、あまりの惨状に溜息をついてしまった。 「これは酷いな……」 建物のあらゆる場所にヒビが入っており、彼が歩くたびに天井から小さな石が落ちてくる。 そして所々では、呪術の紋様が火花を散らしていた。 (衝撃を与えたら、一気に建物が崩れると言うことだな) 多分、神々の闘衣を破壊すれば黒の聖域そのものが崩壊する。 その一瞬の為にも、逆に彼は問題の闘衣を場の崩壊から守る事も考えなくてはならない。 (先程の戦闘で壊れていなければいいが……) 牡牛座の黄金聖闘士は、静かに建物の奥に入る。 何処かで石が崩れる音が反響して聞こえてきた。
黄金の矢を見ながら星矢は固まってしまう。 その様子に紫龍が確認すればいいと言って、星矢と同じように天井に拳圧を与えて周囲の石ごと矢を回収した。 「そもそも、どちらも使用に耐えられる矢なのか?」 一輝の問いに、星矢は二つの矢を見比べる。 すると、星矢の脳裏にある答えが浮かんだ。 あり得ない気はしたが、彼は自分の考えに従った。 ヘラクレスの矢を指で弾いたりと衝撃を与えてみると、鏃(やじり)の部分が縦に割れる。 星矢は手際よく弓を分解し、組立始めた。 この様子に大弓の組立を見ていた氷河ですら言葉が出ない。 「なんという精密さだ……」 紫龍もまた感心してしまった。 とはいえ、星矢がいきなり組み立て作業を始めたので、紫龍は安全な場所に移動してからやれと言いそうになる。 だが、彼の真剣な表情と微かに聞こえてきた声に、彼はそれ以上言葉を続けられなかった。 声の主は、記憶に間違えがなければ自分に力を貸してくれた女神のはず。 彼女は紫龍に、 『自分たちがこの場所に居れば、我の強いアルキュオネウスは他の場所に注意を向けない』 と言った。 巨人は既に自分たちの力量と数に気づいている。 一人でもこの場所から移動すれば巨人は罠だと考え、別の場所に移動する事を思いつく。 それでは島にいる弱き者達がただでは済まない。 彼女の言葉に紫龍は頷く。 それこそどのような手段を用いても、アルキュオネウスに十二名の黄金聖闘士たちのやる事を悟られてはならない。 そして春麗たちの存在に気づく事も……。 彼は拳を握りしめたまま、足下の虚空を見つめた。