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限界 2

衝撃を食らった手を押さえながら彼は呟く。
「何故……。 師ケイローンは私を認めないと言うのか」
すると、様子を見ていたアフロディーテが静かな口調で答えた。
「それが聡明なる賢者の望みなのだろう」
賢者は自分の弟子に使わせたくはなかったのか。
それとも女神パラスに全てを託したのか。
彼はアフロディーテの言葉に沈黙する。
その重々しい静寂を破ったのはデスマスクの声だった。
「おい。こっちは許可が下りたぞ」
誰もが直ぐには何のことだか分からない。
しかし次の瞬間、彼らの目の前に一つずつ、分解された天秤座の武器が現れたのである。

『黄金聖闘士達に告ぎます。 神々の闘衣を破壊しなさい。
そして星矢たちは、何としてもアルキュオネウスが出てくるのを防ぐのです』

沙織の小宇宙を介した言葉が、シャカ以外の闘士達に届く。
シャカ、デスマスク、アフロディーテの三人は、躊躇いもせずに目の前に浮かぶ武器を素早く持った。
「先に行くぞ」
彼らはそれ以上何も言わずに階段を駆け下りてゆく。
一瞬だけ周囲に吹く風が強まった。

カノンは自分と相手の間に浮かぶ武器を見たが、手を動かさない。
「何を恐れている。 双子座の聖衣は先の聖戦で、お前に従ったのだろ」
彼の残酷な言葉に、一瞬だけカノンの表情が変わった。
その様子にテティスが、カノンの腕にしがみつく。
「双子座の聖衣はシードラゴン様を認めるかもしれないけど、シードラゴンの鱗衣はシードラゴン様しか認めない!」
彼女は自分たちの筆頭将軍を惑わせる者を睨み付けた。
カノンもテティスが不安になっている事に気付く。
「俺は海将軍として生きる事を選んだ。 お前の後始末など真っ平だ」
その威圧的な口調に星矢たちは再び喧嘩が始まるのかと思ったが、相手はその視線を武器に移した。

『ならば跡形もなく壊すことにしよう』

その言葉と共に彼がまとっていた神々の闘衣は自動的に外れ、代わりに双子座の黄金聖衣が神殿にやってきた。
サガは素早く双子座の聖衣を装着する。
そして天秤座の武器に手を伸ばした。
「ペガサス。 アルキュオネウスに対してはヘラクレスの矢を使え。
あれでないと巨人の身に決定打を与えられない」
彼は何度か武器の具合を振る事で確かめながら言う。
星矢はその説明に頷く。
「あとは自分たちを守ってくれている神々の声を聞き逃すな」
サガは他の青銅聖闘士たちにそう告げると、階段を駆け下りる。
「カノンも彼女を連れて避難した方が良い」
氷河の言葉にシードラゴンの海将軍は、いきなり星矢の腕を掴む。
「その前に神殿内の状況を説明しておく。
簡単に床を踏み外されたら面倒だ」
彼は星矢を神殿の方へ引きずる。
「お前達もさっさと来い!」
カノンの剣幕に他の闘士達はお互いに顔を見合わせてしまった。


双子座の黄金聖闘士は次々と暗黒宮を駆け下りた。
彼の脳裏に遠い昔の事が思い出される。
女神エリスが女神アテナの教育係だった頃、護衛役に居たペガサスの聖闘士は礼節について自分に叱られるとカストールの後ろに避難していた。
その光景を女神達が笑って見ている。

サガはこれが自分の体験ではないことは分かっていた。
(これはポリュデウケースの記憶だ)
彼はその記憶を振り払い、自分の成すべき事に集中した。