INDEX
   

限界 1

冥闘士に担がれて貴鬼は神殿を後にする。
冥界の闘士たちは器用に何かを避けながら、階段を下りていった。
「何かあるの?」
貴鬼はデッドリービートルの冥闘士・スタンドに尋ねる。
すると巨漢の冥闘士は、
「お前には分からないだろうが、この場所にはたくさんの呪術の紋様が書き込まれている。
耐性の無いお前達を放り込むわけにはいかないから、しっかり掴まっていろ」
と答えた。
確かに貴鬼には呪術が何処に描かれているのか分からない。
彼はしっかりとスタンドにしがみついたのだった。
その時、先行していた冥闘士が急に立ち止まる。
「この先に面倒な暗黒宮がある。 賭になるが閉じこめられるよりは良い」
そう言って、その冥闘士は階段から右よりの方向を指す。
そこは貴鬼には真っ暗な空間しか見えない。
だが、他の冥闘士たちは次々と同意したのである。
「大丈夫だ」
自分の事を担いでいる冥闘士の言葉に、貴鬼も覚悟を決めて頷く。
彼らは暗黒宮を一つ抜けた後、別のルートで外に向かう。
その道は不思議な事に黒い煙など噴きだしておらず、貴鬼は冥闘士達の判断の的確さに驚きを隠せなかった。

聖域で言うなら天蠍宮に当たる建物で、ミロは中の様子を注意深く見て回る。
途中で老師にも言われたように、神々の闘衣の所在を確認しておこうと思ったからである。
そのような物は存在しないのならば、それはそれで良い。
「……」
だが、彼は出口付近まで移動した時、とある気配を察した。
(奴だ!)
先程、女神に対して攻撃を仕掛けた巨人。
それが近くに居るような気がする。
ミロはガイオーンを排除すべく、再び暗黒宮の中心へと駆け出した。


神殿ではカノンはもう一度双子座の聖闘士を殴ろうとしたが、彼は何とか怒りを抑えた。
「お前は不死かもしれないが、サガはどうなる!」
しかし、相手は表情を変えない。
「今、それを考える必要はない。 お前は双子座の黄金聖闘士でもあるのだ。
この身にまとう闘衣を聖域の双児宮に該当する場所へ持って行け」
そして、十一名の同胞と共に神々の闘衣を破壊しろと言われ、カノンの表情が強ばった。
「貴様……」
「お前なら出来る」
彼はそう言うと、星矢の方へ近づく。
「射手座がやったのか」
そう言って手を伸ばした瞬間、ヘラクレスの弓から火花が散った。
「!」
「これに触るな!」
星矢は抱えるように弓を守ると相手から離れ、カノンの後ろへ移動した。
双子座の黄金聖闘士は呆然とした後、自分の手を見たのだった。

「ペガサス。 何故、俺の後ろに隠れる」
カノンは自分を盾にされ、どう怒って良いのか分からないまま文句を言う。
しかし、星矢自身もよく分からなかった。
ただ、この方法なら相手は諦めるような気がしたのである。
それでも根拠はほとんどなかった。