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続々・緊迫 7

サガはフェニックスの聖闘士が連れてきた少女を見た時、何処かで会ったことがあるような気がした。
「お前が遺跡で見つけた娘だ」
カノンに言われて、サガはようやく当時の状況を思い出す。
「無事で何よりだ」
思わず彼は少女に言葉をかけたが、思い返してみれば今居る場所は危険地域である。
一番そぐわない台詞を言った事に、サガは困惑してしまった。
ところが、今まで無反応だった少女が、ゆっくりと彼の方を見たのである。
彼女はサガの方へ手を伸ばすと、その腕を掴んだ。
淡い光が少女の方へ流れ込む。
彼女はフェニックスの聖闘士から離れると、サガの前に立った。
『兄様。ごめんなさい』
そう言ってサガに縋り涙を零して謝罪する少女は、彼に対して当時発生した事件の真相を話し始めたのだった。

スパルタの王女であるクリュタイムネストラーは聖域に居る兄の所へ行く時、ヘレネにある約束をさせた。
それは自分に何があっても、最後まで兄たちの救出を待つという事。
ヘレネは最初、どういう意味なのか分からなかった。
女神アテナの聖域に行くのだから、危険はないはずである。
彼女はそう言うと、クリュタイムネストラーは同意して笑った。

聖域で暮らし始めて数日後、カストールに会わせようと言う人間が現れた。
英雄テーセウスとその友人のペイリトオスである。
彼らの口車に乗せられた時に、あの惨劇が起こったのである。

人質が二人居ては、兄たちの身動きが取れなくなる。

瞬時にクリュタイムネストラーはそう判断を下し、自害したのだ。
女神であるヘレネなら、神々がきっと救いの手を差し伸べてくれると信じて……。


少女は尚も彼に謝罪する。
彼は少女の肩に手を置いた。
「ヘレネ。お前だけを苦しめてすまなかった。
あの子の想いを察する事が出来なかった私にも非はある」
あの時、自分は大切な妹を死なせた。
ならば、今度は間違えてはならない。
彼は何をするべきか理解した。

「誰かヘレネを安全な所まで連れていってくれないか」
突然の依頼だったが、パピヨンの冥闘士であるミューは直ぐに返事をした。
「我々冥闘士がその者を外へ連れて行く。
これは女神アテナからも依頼されている」
その為に彼らは聖闘士と共に神殿へやって来たのだ。
彼は冥闘士たちが呪術の気配を察する事に長けている闘士である事を、直ぐに理解した。
躊躇いもせずに妹を眠らせると、冥闘士に彼女を渡す。
このメンバーで少女を安全に外へ連れ出せるのは、彼らしか居ないからである。
一輝は厳しい表情でその様子を見た。
だが、呪術の状態が不安定な状態となった今では、聖闘士である自分では呪術を避けられないのは判っていた。
先程は、たまたま呪術の影響の少ない場所をシャカが歩いただけなのである。
「こいつも連れて行くぞ」
そう言ってデッドリービートルの冥闘士スタンドは貴鬼を担いだのだった。

冥闘士たちが神殿から離れると、彼は再び神殿の方へ向かう。
「おい。何をするんだ」
カノンが彼の腕をつかむ。
しかし、彼は抵抗する事なく神殿の方を向いたまま話をし始めた。
「この地は、神殿を中枢として大地のエネルギーを制御するシステムが出来上がっている。
そして今は呪術が作り替えられようとしているが、中継システムは聖闘士でも見えるものだ」
その説明に口をはさむ者は居ない。
「神々の作り上げた闇の闘衣。
これを同じタイミングで破壊すれば、全てのエネルギーは神殿に逆流する。
上手くいけば、神殿に出現しようとしているアルキュオネウスを倒せる。
そしてこの地は機能を停止し、大地の女神たちも助ける事が出来るだろう」
「本当か!」
星矢が声を上げる。
彼は振り返ると、星矢の方へ手を伸ばした。
「その弓を寄越せ」
「何だって!」
「それを行うには十二の闘衣を破壊した時、そのエネルギーを下に向けないとならない。
人であるお前には無理だ」
その言葉にカノンは怒りのあまり、彼に詰め寄ったのだった。