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続々・緊迫 6

彼が再び神殿の外へ出ようとした時、足下の床が割れる。
「ポリュデウケース!」
星矢の声と一緒に、誰かの声が彼の耳に届く。
同時に彼は神殿の外へ押し出された。
「カノン!」
彼は自分をタルタロスから落ちるのを防いでくれた人物を見て驚く。
相手もまた、呆然とした様子で彼を見ていた。
「サガ……か」
二人の間に、一瞬だけ沈黙が流れる。
サガはどう返事して良いのか分からず、
「あぁ、そうだ」
と、短く答え、肩を押さえながら立ち上がる。
するとカノンはしばらくサガの顔を見た後、思いっきり彼を殴ったのだった。

ちょうどその時、後続の闘士たちが神殿に到着。
それから暫くして、アフロディーテに肩を貸しながらデスマスクが神殿から出てきた。
「お前ら、元気があり過ぎるぞ」
サガとカノン、そして二人の喧嘩を止めている青銅聖闘士たちを見て、彼は溜息を付いたのだった。

「ポリュデウケースと話が出来ないとは面倒だな」
アフロディーテの言葉にカノンも渋い顔をした。
既に黒の聖域は、機能が停止するどころか別の物に変わり果てている。
神殿内部は黒い煙が充満しつつあり、呪術の光はほとんど視覚からでは関知できない状態なのだ。
サガ自身も、この場所にどのような細工がされているのか見当が付かない。
ポリュデウケースを油断させる為に、あらゆる接触を断っていたのが裏目に出た状態だった。
しかし、そんな状態だというのにデスマスクは平然としている。
「まぁ、ここで待っている事だ」
彼の自信に満ちた態度が、逆に他の闘士達を不安にさせた。

しかし、カノンとアフロディーテは何も言わず神殿の階段を見ていた。
(誰かが来るのか?)
サガは先程の矢で傷つけられた肩を小宇宙で癒していた。
ほとんど応急処置でしかないが、それでもやらないよりはマシ。
この時、彼は自分の右腕から淡い光が出ている事に気が付く。
(何だ……)
優しく暖かい光に、サガは何度か手を動かす。
するとカノンが彼の肩を叩いたのだった。
「サガ。来たぞ」
何のことか分からず、彼は弟の指さした方を見た。
其処にいるのは、シャカとフェニックスの聖闘士。
それに二人の少女と子供だった。

サガは自分の心臓が大きく脈打っているのが分かった。


テティスはカノンの姿を見つけると、直ぐに神殿へ駆け上がる。
「シードラゴン様!」
彼女はカノンの前に立つと、泣きそうな顔をしながら彼の顔を見た。
「ご無事で良かった……」
しかし、カノンは聖闘士どころか冥闘士までいる場所でテティスを労う事に抵抗を感じ、
「当たり前だ。 オレを誰だと思っている」
と、筆頭将軍としてのプライドを守る事にした。
それを見ていたほぼ全員が、カノンに対して微妙な眼差しを向けていた。

「兄さん!」
テティスとは入れ違いに、瞬が兄を見つけて階段を駆け降りる。
「みんな無事だったんだね」
しかし、一輝が抱きかかえている少女は何の反応も示さない。
「エスメラルダさん?」
彼は不安げに自分の兄を見た。
「……」
一輝は何も言わずに瞬の前を通り過ぎると、エスメラルダと共に神殿へ向かった。