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続々・緊迫 4

同じ頃、冥界ではアイアコスがタルタロスも門の傍で、奇妙な現象を見た。
門から立ち上る黒い煙。
それと同時に風が吹き始めるのだが、煙は風の影響を受けている様子が見られない。
(奴らが出てくるのか)
彼は巨人族の出現を考え、警戒態勢に入った。
しかし、アイアコスは煙の行く先を見てギョッとした。
「まさか竜巻!」
冥界に漠然と存在する暗い上空に、風の三角錐が見えた。
その先端はタルタロスの門から出てくる煙と繋がろうとしている。
敵が巨人族なら闘いようもあるが、自然現象では例えアイアコスでも対処の仕様がない。
(まさかタルタロスが地上と繋がるのか!)
巨人の作り上げた道が実体化しようとしているのだろうか。
しかし、今はそんな事を考えている時間はない。
タルタロスに近付き過ぎて落ちたら、いくら冥闘士でも再び冥界に戻ることは難しい。
本来、タルタロスと冥界は地上と天上界くらいに距離が離れているのだ。
それが道の出現により、直ぐ傍まで接近している。
これによりタルタロスに落とした罪人が冥界に入り込む可能性も否定できない。
彼は冥界にいる冥闘士達に臨戦態勢に入れと命じた。

神殿内部を襲った放電現象は、徐々に収まりつつあった。
テティスは再び入ろうと試みる。
この時、彼女はプラズマによって浮かび上がった煙のようなものを見た。
それと同時に周辺の壁に亀裂が入り、隙間から黒い煙が吹き出す。

「何よ。これは!」
彼らの居た場所の視界が、瞬く間に狭くなってゆく。
「場が崩れるぞ」
たいして慌てていないシャカの言葉と周辺の岩や壁が崩れる音は、ほとんど同時だった。


黒い煙は神殿のみならず、黒の聖域の至る所で吹き出し始める。
ミーノスはそれが何であるのか、瞬時に察した。
「女神アテナ。
どうやらこの場所にタルタロスが出現するかもしれません」
巨人族が地上へ向かった時に出来た道を通って、タルタロスの空間が流れてきたと思われる。
そうグリフォンの冥闘士は言葉を続けた。
原初の空間が地上に出ようとしている!
それが何を意味するのか、聖闘士たちには想像がつかない。
そして沙織は一言、
「そうですか」
と言うと、じっと黒の聖域を見つめた。

カミュは脇腹を抑えながら、ヨロヨロと立ち上がる。
厚く張った氷に亀裂が入り周囲から黒い煙が吹き出した時に、巨人の一撃をまともに食らったのだ。
向こうも自分の必殺技を受けているので無傷ではない筈だが、それでも取り逃がしたのは悔しい。
彼は神殿へ向かおうとしたが、思ったよりも傷は深い。
カミュは再びそこに座り込んだのだった。