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続々・緊迫 3

巨人アルキュオネウスは、自分の所へ向かう神々の気配が段々と強くなっていく事に気が付いた。
しかし、自分の身体が島の大地と完全に同化するには、もう少し時間が必要である。
それに今の段階で倒す必要はない。
完全に同化が終わってから好きなように、闘士もろとも仕留めれば良いのだ。
不死身になりつつある巨人は、少し離れた所にあるで面白い玩具を見つける。

これを動かしたら楽しそうだ。

彼はそう思い、何の警戒もせずに本体から離れ、玩具の方へと近づいたのだった。

静まり返った十一番目の暗黒宮。
氷河は自分の師匠が居るのではと思ったが、そのような気配は感じられない。
(ここには居ないのか?)
彼は一瞬、立ち止まる。
その瞬間、彼は背後から攻撃を仕掛けられた。
巨大な手が彼に襲いかかる。
だが、彼が防御の態勢をとるよりも早く、その攻撃は別の存在によって弾かれたのだった。

「先生!」
氷河は思わず驚きの声を出す。
忘れた事のない師の後ろ姿。
懐かしさと嬉しさで彼は涙が出そうになったのだが、
「氷河。敵の潜む場所では、気配を消せと教えたはずだ」
感激の再会は説教を伴っていた。

正体不明の闘士は尚も攻撃を仕掛ける。
だが、カミュの凍気がそれを阻んだ。
水瓶座の黄金聖闘士は氷河に背を向けたまま言葉を続ける。
「お前はペガサスと共に神殿を目指せ」
「えっ!」
「ここは私が引き受けよう」
彼は直感的に相手が人外の者であると判断したのである。
確かに体格は人のように見えるが、その気配は絵梨衣を攻撃した存在とよく似ている。
そして、自分の弟子がまとう聖衣から神々しい気配も感じていた。
「ぐずぐずするな!」
懐かしい叱責に氷河は勢いよく返事をして、その場から駆け出す。
(氷河、強くなったな)
自分が育てた弟子の成長に、万感の思いが過ぎる。
ならば自分も彼の師として、成すべきことをするのみ!
(ここから先に行かせるわけにはいかない)
カミュの小宇宙が建物内の気温を下げ、瞬時に周囲を凍らせる。
建物の床や壁の表面を氷が膜のように覆う。
そして太い氷柱が何者の侵入を許さないと言いたげに、通路に幾重にも現れたのだった。


アルキュオネウスはこの状態に、ある意味戸惑ってしまった。
彼は運命の女神達の加護を得ている闘士を見つけたのだから、さっさと潰すつもりだった。
ところが足が動かなかったのである。
いつの間にか足下を凍らされてしまったのも腹立たしい話だが、大地に足をつけている自分にそのようなことを行えた者が居ることもまた驚くべき事だった。
彼は強引に身体を動かし自由を得たが、目的の闘士を追いかけるタイミングを完全に失ってしまう。
よもや目の前の闘士もまた、何らかの存在が守護についているのだろうか?
彼は自分の本体に戻ろうとしたが、何故か建物から出られない。

厚く張った氷が自分と大地の間に入り込み母神からの力の供給を邪魔をしていた。

アルキュオネウスは、目の前の闘士を倒さねば自由になれない事に気付く。
追い詰められた巨人はカミュに向かって突進した。