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続・緊迫 4

神殿から溢れた光は周囲の岩肌を抉り、粉塵を撒き散らす。
崩壊している壁の外側もまた、無事ではすまなかった。
テティスは素早く体勢を立て直すと神殿に駆け寄る。
しかし、壁に開けられた穴から中にはいることは叶わなかった。
何故なら入ろうとすると火花が飛び散り、彼女の体は弾き飛ばされてしまうのだ。
「シードラゴン様」
彼女は声の限り叫ぶ。
しかし、中から人の気配は感じられず、雷のような光が幾つも神殿の内部を縦横無尽に走っていた。

「本当に都合のいい男だな」
シャカはそう言って、少し離れたところで転がっている人物を見る。
「知らぬ神より馴染みの鬼か……」
恐ろしい程の轟音が轟いた爆発後も平然としているシャカは、的はずれかつ失礼極まりない発言をさらりと言った。
「貴様は黙れ」
一輝は彼を葬り去りたい衝動に駆られる。
そういう自分は誰に手を差し伸べる事無く、平然と立っているのだ。
少し離れたところで、貴鬼が苦しそうに咳き込んでいた。
「貴様こそ、このような危険な場所にエスメラルダを連れてくるとは、どういう了見だ」
とにかく彼にはシャカのやっている事が正気とは思えない。
それ以上に会話の成立しない相手であるのだが……。
「鷽鳩、大鵬を笑う」
その返事に、ますます一輝はシャカを葬りたくなった。
しかし、彼は理性を最大限に働かせて、シャカに関しては放っておくことにした。
とにかく最優先すべきは、自分の腕の中にいるエスメラルダの安全である。
会話の成立しない人物と争って時間を費やす気は更々ない。
「エスメラルダ。大丈夫か」
彼が話しかけると、エスメラルダは顔を上げた。
何を言う訳でもなく、ただ一輝の顔を見ている。
「エスメラルダ?」
彼女の様子は、まるで心が何処かへ行ってしまったかのようだった。

暗い世界の階段を駆け上がり、瞬たちは十番目の暗黒宮を目指す。
だが、彼らは今までよりも階段を長く感じていた。
それに何故か息苦しい。
そう感じていたのは冥闘士たちも一緒だった。
「この気配は何だ……」
紫龍は視覚に頼ることを止め、目を閉じながら走る。
すると暫くして、彼の脳裏にギラギラとした目で自分たちを見ている影が現れた。
それが巨人族なのかが彼にも分からないが、少なくともその目に好意というものは感じられない。
(どんな者だろうと、春麗達の所へは行かせない)
彼は再び目を開けると、より厳しい眼差しで次の暗黒宮を目指す。

そして彼らが十番目の暗黒宮に辿り着いた瞬間、周囲の様子が一変する。
今まで見えていた暗黒宮の壁も床も、何か陽炎のように揺らめき始めたのである。
「敵襲か!」
冥闘士の一人が叫んだ。
その途端、風の音と共にその冥闘士の冥衣が鋭利な何かによって切り裂かれる。
「シュラ。彼らは敵じゃない」
咄嗟に紫龍は山羊座の黄金聖闘士の名を呼んだが、次の瞬間、彼も体に衝撃を受けた。
「紫龍!」
瞬は思わず叫んだ後、ネビュラチェーンを前方の暗黒に向かって放つ。
「チェーンよ。闇に潜む者を捕らえろ!」
今まで銀色に近い光沢だったネビュラチェーンが瞬の言葉に反応したのか、その姿を黒く変えて前方に突き進む。
その直後、人の声とは思えない絶叫が暗黒宮の中に響き渡る。
瞬は巨人族を捕らえたのかと思い、チェーンをきつく握った。