神殿から溢れた光は周囲の岩肌を抉り、粉塵を撒き散らす。 崩壊している壁の外側もまた、無事ではすまなかった。 テティスは素早く体勢を立て直すと神殿に駆け寄る。 しかし、壁に開けられた穴から中にはいることは叶わなかった。 何故なら入ろうとすると火花が飛び散り、彼女の体は弾き飛ばされてしまうのだ。 「シードラゴン様」 彼女は声の限り叫ぶ。 しかし、中から人の気配は感じられず、雷のような光が幾つも神殿の内部を縦横無尽に走っていた。 「本当に都合のいい男だな」 シャカはそう言って、少し離れたところで転がっている人物を見る。 「知らぬ神より馴染みの鬼か……」 恐ろしい程の轟音が轟いた爆発後も平然としているシャカは、的はずれかつ失礼極まりない発言をさらりと言った。 「貴様は黙れ」 一輝は彼を葬り去りたい衝動に駆られる。 そういう自分は誰に手を差し伸べる事無く、平然と立っているのだ。 少し離れたところで、貴鬼が苦しそうに咳き込んでいた。 「貴様こそ、このような危険な場所にエスメラルダを連れてくるとは、どういう了見だ」 とにかく彼にはシャカのやっている事が正気とは思えない。 それ以上に会話の成立しない相手であるのだが……。 「鷽鳩、大鵬を笑う」 その返事に、ますます一輝はシャカを葬りたくなった。 しかし、彼は理性を最大限に働かせて、シャカに関しては放っておくことにした。 とにかく最優先すべきは、自分の腕の中にいるエスメラルダの安全である。 会話の成立しない人物と争って時間を費やす気は更々ない。 「エスメラルダ。大丈夫か」 彼が話しかけると、エスメラルダは顔を上げた。 何を言う訳でもなく、ただ一輝の顔を見ている。 「エスメラルダ?」 彼女の様子は、まるで心が何処かへ行ってしまったかのようだった。 |
暗い世界の階段を駆け上がり、瞬たちは十番目の暗黒宮を目指す。 |