(もうすぐだ) アイオロスは暗黒宮の壁に寄り掛かる。 異空間から脱出をするのに多少無理をした為、脚にかなりの負担をかけた。 その為、今の彼は立ち上がるのもやっとという状態だった。 ふと周囲を見回すと、まるで時が止まったかのような静けさ。 むしろ音というものが無いと言ってもいい。 (これはいったいどうしたんだ?) 一抹の不安を感じた時、彼は懐かしい小宇宙を感じた。 それはとても力強く、真っ直ぐな光を放っている。 (アイオリア……?) 彼は意識を集中してみる。 すると数秒間ではあったが、傷ついた者を庇い敵の前に立ちはだかる弟の姿が見えた。 だが、足の痛みで意識を集中させる事が難しく、そのイメージは直ぐに消えた。 しかし、アイオロスが再び弟の姿を見ようと試みる事はしなかった。 その姿だけで彼は満足だったのだ。 (よくここまで……) 自分の行った事により、弟は長い間辛い日々を過ごした。 幼くして頼るものを失ったアイオリア。 仕方がなかったと言うには、自分の仕出かした事はあまりにも残酷過ぎた。 しかし、弟は逆境に負ける事なく獅子座の黄金聖闘士に相応しい者となっていたのだ。 (もう、大丈夫だな) 彼は小さく微笑むと、自ら傷つけた足に手を伸ばす。 だが次の瞬間、彼は弟が何と闘っているのか気付いた。 (あの時、予言の術の中でアイオリアが闘っていた者も、黒い獅子座の聖衣をまとっていた……) 確か術の最後まで見ていたような気がしたのだが、どうしても思い出せない。 (あぁ、そうだった。 見たくないと言って、強制的に術を終わらせたのだ……) そしてその後、強制終了の反動で彼はしばらく寝込んだのだ。 当時、事情を知らない者から珍しい事だと言われたが、珍しすぎて逆に周囲の人間に心配を掛けた事を彼は思い出した。 あの時見えた映像は、アイオリアが無残に傷つき倒れるものだった。 だが、今の弟なら大丈夫だとアイオロスは確信出来る。 あの時の弟は自分にとって庇護の対象であったが、今は頼もしい仲間の一人なのだ。 彼は、そのまま足の力が抜けたかのように壁により掛かりながらズルズルと腰を下ろす。 この時、不意に彼の耳に人の声が飛び込んできた。 そして今まで聞こえていなかった風の音や、誰かがこちらに向かって来ている足音までも聞こえてくる。 この変化にアイオロスは、まるで時間が動き出したかのような印象を受けた。 「アイオロス!」 自分の名を呼ぶ若き聖闘士の姿を見た時、射手座の黄金聖闘士は思わず口元に笑みを浮かべた。 |
黒の聖域の入り口居るミーノスは、自分の側にいる冥闘士の方をちらりと見る。 |