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緊迫 8

暗黒宮を脱出しようとする冥闘士たちは、春麗のために呪術の影響が無い場所を選んで移動する。
天秤座の黄金聖闘士が捕らえられていた暗黒宮から一つしたの建物は、特に異常もなく通り抜ける事が出来た。
ただ、妙な気配は常に感じていたので、本当に異常がなかったのかは闘士たちには分からない。
そして二番目の暗黒宮に彼らが入ろうとした途端、遥か後方にそびえている神殿が光ったのである。
シオンたち聖闘士は思わず振り返る。
しかし、神殿で起こっている事は星矢たちに任せるしかない。
それに今から入ろうとする暗黒宮は、先程よりも異様な気配が濃厚だった。
それはまるで巨人が潜んでいるかのような緊張に満ちていたのである。

ゴーレムの冥闘士ロックは、自分が抱えて運んで居る少女を複雑な思いで見た。
(この娘がドラゴンの聖闘士の知り合いとは驚きだ)
自分が娘を連れて行く事になった時、ドラゴンの聖闘士は困惑の表情を見せていた。
一度は敵対した間柄ゆえ、素直に信じて良いのか迷うのかもしれない。
(まだまだドラゴンの聖闘士も若いな)
ロックがそう考えた瞬間、彼の背後に何かが現れた。
そして焼けるような熱さと痛みが彼を襲う。
「うおぉぉ!」
なんとか春麗を庇いながら、ロックは暗黒宮を走り抜けようとする。
背後では仲間たちが敵の姿を求めるが、それらしい者が居ない。
しかし、ロックは尚も攻撃を受けていた。
彼は春麗を守るため、敵意を感じた瞬間逃げずに背中を晒し続ける。
だが、幾度も攻撃を受けて彼もまた意識が朦朧とし始めた。
再び攻撃が仕掛けられた時、彼は春麗をどう守るべきか考えた。
だが、今度は何も無かった。

ロックは自分の傍に黄金の光が立っている事に気がつく。
「これ以上の狼藉は許さん!」
獅子座の黄金聖闘士アイオリアがロックと敵の間に入って、相手の爪を受け止めたのである。

獅子座の聖衣の光が闇に隠れていたものを表へと引きずり出す。
巨人ガイオーンは獅子座の聖衣に似た黒い闘衣をまとっており、アイオリアに邪魔をされた事に怒りの表情を見せていた。


黒の神殿では、二つの巨大な力を持つ小宇宙がぶつかり合う。
どちらも相手を倒す事に躊躇いが無かった。
「それでもこの神殿はなんとか建っていられるのだから、随分根性があるな」
デスマスクは妙な事に感心する。
だが、既に床も壁も綺麗なままとは言い難い状態だった。
「対聖闘士戦の中枢なのだ。
闘士の技を吸収する呪術でも施してあるのだろう」
そう言いながらアフロディーテは、カノンの開けた穴の傍にいる者たちを見て驚きの声を上げる。
「あれは……」
そこに居たのは二人の少女。
だが、アフロディーテが驚いたのは場違いな少女たちの様子ではなく、自分がその内の一人の顔に見覚えがあった事だった。

そしてポリュデウケースもまた、二人の少女に気がついた。
「な、なんだと!」
その少女たちの一人は彼にとって殺したいと願い続けた者。
そして、もう一人は再会を望みながらも叶わない事を嘆き続けた存在だったのだ。

「ヘレネか……?」

同じ母神から生まれた妹。
女神でありながら魂の双子と共に死ぬ事を選んだ少女。

「貴様。何を企んでいる!」
ポリュデウケースはカノンを睨み付けると、悪夢を振り払うべくギャラクシアン・エクスプロージョンを彼に向けて放ったのだった。