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緊迫 4

「女神アテナ。冥闘士たちへの連絡は終了しました」
ミーノスの言葉に沙織は頷く。
他の黄金聖闘士たちはミーノスが何と言って命じたのか分からない。
しかし、沙織が納得している以上、彼らに文句は無かった。
次に彼女は自分の隣にいた牡羊座の黄金聖闘士の方を向く。
「では、今度はムウが黄金聖闘士たちに私の言葉を伝えなさい」
ポリュデウケースに聞かれても構わないと、沙織は言う。
(いったい何をされるつもりだ?)
ムウは沙織の考えていることが分からなかったが、とにかく命令に従った。

星矢たちが七番目の暗黒宮へ到着しようとした時、紫龍は異様に張りつめた気配を感じた。
視線とは違うが、何かが自分の事を見ているような気がする。
彼は一瞬立ち止まったが、気の所為かと思い再び駈けだしたのだった。
彼らは壁や床の破壊された建物を移動する。
真新しい戦いの傷跡は、若き聖闘士達に戦いの凄まじさを伝えていた。
そして彼らが暗黒宮内で仲間たちの姿を認めた時、彼らの許にムウの声が聞こえてきた。

巨人ガイオーンの襲撃と潜伏。
そして各建物の中にあるであろう暗黒の闘衣についての情報が、聖闘士たちに伝えられる。

状況の分からない春麗は、不安げに養父とやって来た龍座の青銅聖闘士の顔を交互に見たのだった。


ポリュデウケースは牡羊座の小宇宙に眉をひそめる。
(私に知られても良いというのか?)
巨人ガイオーンに関しては攪乱の情報だろうか?
しかし、女神の居るであろう場所で巨大な気を感じた。
多分、あれは巨人族のものだろう。

(女神は何を考えている?)
七番目の暗黒宮から発生した紋様の書き換えといい、何か自分の与り知らぬ事態が発生している。
(エリスは何をするつもりだ……)
謀略により教え子を失った彼女は、復讐という自らの望みを果たすためにその能力を変化させた。
(全てを滅ぼすつもりで彼女は動く)
だが、それが今回であるという確証は無い。
あの女神は最後の一瞬を制する為なら、気の遠くなるような時間を費やす事も平気で行う。
ポリュデウケースは理解し合えなかった筈の女神を思い、笑みがこぼれた。

黒の聖域に広がりつつある流れが、神殿の紋様が少しずつ書き換えてゆく。
しかし、床に現れた別の紋様がそれに抗うように光を強めていた。
「おい、ポリュデウケース。
お前はどれが本物の神々の闘衣か、知っているのか」
デスマスクは返事が無い事を承知の上で質問をしてみた。
すると不死なる神はデスマスクの顔を見た後、可笑しそうに答えた。
『現状を維持するのに必要なのは、本物ではない。
一定能力があれば偽物でも役目が果たせる。
そうだろう?』
確かに13年間、ポリュデウケースは表立って疑われる事なく教皇職に就いている。
デスマスクはその言葉に、
「それもそうだ」
と言った。

そんな会話がなされた黒き神殿の中で、闇が動く。
アフロディーテはその方向をじっと見た。
(何かが居る……)
どう見ても、その気配は人のものとは思えない。
しかし、不思議と敵意は感じられなかった。
だからと言って、相手に殺意がないと言う証明にはならない。
恐ろしい敵というものは、最後まで敵と悟られない技量を持っているからである。