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緊迫 3

「お前たち、ここで何をやっているんだ」
そこに立っていたのは海龍の海将軍カノン。
背後からテティスが駆けつける。
エスメラルダは自分の身に何が起こったのか分からず、茫然としたままカノンに担がれていた。
しかし、シャカは
「あぁ、ちょうどいい。そのまま担いでいてくれ」
と言って、再び歩きだす。

「こっちは急いでいる」
カノンとしてはシャカの言う事を聞く気はないが、何故か少女をこのままにする事も躊躇われた。
エスメラルダを助けた瞬間、脳裏に誰かの声が聞こえた所為かもしれない。
ただ、若い娘の声だとハッキリ分かったのだが、何て言ったのかが一瞬の事なので思い出せない。
「テティス。俺の事を呼んだか?」
彼は自分から少し離れて立っている人魚の海闘士に声をかけた。
テティスはその問いに頷いた。
「シードラゴン様と呼びました」
彼女の返事にカノンは首を傾げる。
やはり聞こえた声は、テティスのものとは違う。
「とにかく此処から離れるまでは大人しくしていてくれ」
そうエスメラルダに言うと、カノンはシャカの後に続いた。
貴鬼も一緒に歩きだす。

テティスはその光景を見て、 何か自分だけが除け者のような気がした。
エスメラルダという少女は、今でも自分を怖がっているかもしれない。
あまり近づかない方が良いかもしれない。
(……)
同性から怖がられる自分。
もしかして他の仲間達も自分を嫌っているのではないか。
そんな考えが過る。
(何で、そんな事を考えるのよ!)
しかし、胸が締めつけられるかのような遣り切れなさは拭えなかった。

四名の青銅聖闘士たちの少し後をミューたち冥闘士が付いていく。
星矢たちは最初の頃は紋様を警戒していたが、既に力業とも言うべき走り方をしていた。
何せ神聖衣は呪術の紋様に入り込んでも聖衣の表面を光が走るのみ。
痛みなどを感じないのである。
ならばいちいち避けている時間はない。
そう考えて彼らは強行突破を選んだのだった。
その様子はミューたちにとっては危なっかしいの一言に尽きた。

(無茶苦茶なヤツらだ……)
しかし、時間を短縮する為には、限界まで神聖衣を危険にさらしても前進しなくてはならない。
もうすぐ7つ目の暗黒宮に到着しようとした時、ミューの脳裏に声が聞こえてきた。
『ミーノス様。何かありましたか?』
自分の中にある魔星が、すぐ傍にミーノスの意識を関知している。
これは侵入者に対してテレパシーを使うと相手に察知される危険がある為、冥闘士たちが別の手段で情報のやりとりをする必要があって備わった能力である。
ただ、この方法はテレパシーよりも冥闘士の資質に左右される。
魔星を制御出来ないと、たとえ冥闘士と言えども相手の声を聞く事が出来ないのだ。
しかし、ミューは全冥闘士達のなかで最も魔星と魂が融合とも言えるほど共感しており、どのような状況下でも仲間たちの声を聞けた。
ゆえに、その声は呪術に満ちた空間の中でもミューの意識にはっきりと届く。

ミーノスの命令は用件のみの短いものだった。
かなりの集中力が必要な為、戦場では長時間の使用は難しいからである。
『花と小鳥を保護しなさい。
暗黒にして巨大な災いに見つかっては面倒です』
命令と共に巨人ガイオーンの様子が送られてきた。
その姿は異様で、明らかにヒトとは違う事が分かる。
このミューの説明を他の冥闘士たちは疑わなかった。