青い宝石の飾られている鎧を纏った幼馴染み。 彼は暗闇の中を折れた弓を持って駈けている。 名前を呼ぼうとして、美穂はそれが夢である事に気がついた。
彼女が眠りから覚めてみると、目についたのは豪勢な造りの天井だった。 何故自分がこんな所に居るのか。 理由が分からず、美穂は茫然としてしまう。 「ここは何処?」 体がだるくて、頭が少しだけ痛い。 周囲を見回すとサイドテーブルにメモと鍵が置かれていた。 紙にはフロントへの内線番号と鍵を置いてゆくという一文のみ。 ようやっと美穂は自分が何処かのホテルに居るのだと分かった。。 彼女は起き上がるとイスに掛かっていたショールを手に取る。 (無くさない様にしなきゃ) 本当なら、この様な綺麗なショールをハードな旅に持って行きたくはなかった。 しかし、あの時はあまりにも慌ただしい状況だった。 美穂は手荷物の確認をし損ねたのは不可抗力だと自分に言い聞かせる。 (星矢ちゃんに話したら、驚くだろうなぁ……) 彼女は嵐の様な出来事を思い返した。
問題の夜、星の子学園に来たグラード財団の人間は神父と美穂に絵梨衣の行方について驚くべき事を伝えた。 彼女は今、別の場所にて保護されているのだが記憶が無いというのだ。 しかも、保護をしている側の人間が絵梨衣を我が子だと言って手放さないらしい。 「とにかく本人が記憶を取り戻してくれれば、弁護士も次の手が打てるのです」 財団の役員だという男性は、困惑した様子で言った。 このままでは事態が進まないし、追い詰めすぎて向こうが絵梨衣を何処かへ隠す事も考えられる。 意外な説明に神父は茫然としたが、美穂は自分が会って連れ戻す気で居た。 絵梨衣に降りかかった災難をそのままにはしておけなかったし、何よりグラード財団の人間が自分たちに嘘をつく筈が無いと思っていたからだ。 とにかく友人である美穂と会わせるなり話をさせて、キッカケを与えたい。 そう言われて美穂は簡単な手荷物を持って星の子学園を出た。 子供たちが起きなかったのは幸いだった。
そして美穂は、移動の車の中で細かい手続きは財団の方で手配済みという説明を受ける。 この時、彼女は財団は一人の青年を護衛にと紹介された。 素直に絵梨衣を返してくれない人たちが相手なので、警戒が必要と言う事らしい。 「なるべく一人で行動しない様に」 彼はそう言ったきり黙ってしまう。 「はい……」 美穂はそう答えながら、護衛役を見た。 なんとなく自分とそう年が変わらない様に思える。 しかし、それで護衛を任されると言うのも奇妙な気はした。
空港に着いた後、ロビーで飲み物を渡された。 それからの記憶が朧げで、飛行機に乗り込んだ気はするが本当に乗ったのかが分からない。 (……フロントに電話して良いのかな?) しかし、美穂は受話器を取ろうとしただ、直ぐに手を引っ込める。 (でも、本当にここはホテルなの?) 彼女はベッドから離れると窓に近づいた。 カーテンを開けると、外は夜の帳が下りていた。 暗闇の中で遠くに町の明かりらしいものが見える。 (あらっ?) 自分の居る部屋は2階らしいが、窓の下で案内役だというグラード財団の役員が誰かと話をしているのが見えた。 彼は何故か灯の下に立っているので間違えようが無い。 話し相手は仕事仲間なのだろうか。 何か怖くなって、美穂は素早くカーテンを閉じる。 その時、部屋のドアがノックされ、外から護衛の青年が開けても良いかと尋ねる声がした。