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自分の前に立ちはだかるハインシュタインの深い森に、巨人エウリュトスは苛々した。 巨人といえども固定されていない体をズルズルと動かしながら、彼は森の中に入る。 早く獲物を捕らえて、母神の許に戻る。 彼はそう思いながら、森に隠れた者を探す。 だが、先程まで感じていた目標物の気配が今は微塵にも感じられない。 この地の木々は冥王の姉を守ろうというのか。 エウリュトスが森の破壊を考えた時、彼の目の前が急に開けた。 今度は低い木が密集する場所。 彼は木に対して嫌な印象を受けた。 とにかく巨人は前へ進む。 すると目の前に立っていたのは一人の人間。 だが、体から漲る闘志は激しかった。 ワイバーンのラダマンティスは、巨人エウリュトスに向かって渾身の一撃を放つ。 「グレイテストコーション!」 エウリュトスは薄笑いを浮かべながら体を変形させて冥闘士の技を避ける。 ラダマンティスの技は巨人の背後の木々を粉砕した。 そのようなものは効かぬ……。 エウリュトスは再び体を動かそうとした。 ところが木の破片が彼の体の中に入り込んでいたのである。 それらは彼の中で急速に成長を始めた。 何だ。これは!!! 巨人は木片を取り除こうとしたが、既に自分の体からは幾つもの蔓が伸びていた。 それが葉を付けた時、巨人は木片の正体を知る。 これは葡萄の木! 先のギガントマキアにおいて、自分を打ち倒した神はディオニソスだった。 その神が守護をする樹木が葡萄である。 嫌な印象が何によるものなのか。 今頃気がついても遅かったとしか言いようが無い。 既に蔓が幾重にも巻きついている為、動くことが出来ない。 木は勢い良く蔓を延ばし、周囲に広がる。 他の葡萄の木にも蔓を延ばした姿は、まるで頑丈な網のようだった。 パンドラは巨人の体を根城にして成長する葡萄の木をじっと見つめた。 何か特別な力を授かったのか、葡萄の木は葉をつけるまで成長を遂げている。 そして葉は、闇夜の中で仄かに光を放っていた。 (先祖代々大事にしていた葡萄畑を傷つけてしまった……) ハインシュタイン家で管理していた特別な木々をメチャメチャにしたのだ。 その光景に彼女の胸は痛んだ。 見ているのが辛くて振り返った時、パンドラは直ぐ傍にサイクロプスのギガントが立っているのに気がつく。 ギガントは彼女に向かって手を伸ばした。 |