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追跡者 7

地母神ガイアは、自分が感じていた不安の意味を理解した。

島には自分の力が及ばない人間が居る。
この者には、私も手を出せない。
この娘は異国の力が守護についている。
大地を慈しみ、共に生きる娘。

今まで見えなかった。
感じられなかった。
何故。
オリュンポス側の神々の加護を得ていないというのに、この娘は戦地へやって来た。
何が娘を突き動かした。
私では娘を排除できない。
子供たち。 この地には私の影響を受けない者が居る。

この者を排除しなさい。
宿命の輪の中に居ない者が運命を変えようとしている。

私は娘の存在を予見していない。


自分を滅ぼす宿命の力が、異国の守護者を引き寄せたのではないか。
彼女は悲鳴を上げた。

春麗の手から離れた箱は、そのまま岩だらけの地に落ちる。
彼女は慌てて拾おうとしたのだが、魔鈴がそれを引き止める。
そんな二人をアイオリアが力業で抱えて、その場から引き離した。
三人の直ぐ横を、巨人の手がすり抜ける。

ポイトスは小さな箱に手を伸ばした。
そして箱の方も、巨人に向かって黒い煙を吐き出す。
巨人の体に書かれた呪術の光に、その煙はしみ込んだのだった。

地母神ガイアの耳に、我が子ポイトスの叫び声が聞こえた。

アルゲティと瞬を追いかけようとした星矢たちは、第一の宮で獣のような咆哮を聞く。

「急ごう」
紫龍は駆ける足を早めた。
とにかく春麗が無事である事を確認したい。
彼は教皇シオンが一緒だと言われても、心に覆い被さる不吉な影が拭えないでいた。

地上に居た冥闘士たちは、島の雰囲気が変わったと口々に言い始めた。
「そう言われれば、空気が軽くなったような気がする」
イオは雨に打たれながら、天を見上げた。
シルフィードもまた空を見る。
恵みの雨と言う言葉を、彼は思い出した。

ポリュデウケースは最初、何が起こったのか分からずにいた。
しかし、時間が経つにつれ、黒の聖域に起こりつつある事態を理解する。
この地に張りめぐらされた呪術は機能が停止するどころか、自分でも制御不可能になったのである。
彼の足元で床の石版に亀裂が入る。
しかし、ポリュデウケースも二人の黄金聖闘士たちも神殿から逃げようとはしない。

未だに足元に浮かび上がった紋様は光を放ち、その下から強大な生き物の気配が感じられた。