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地母神ガイアは、自分が感じていた不安の意味を理解した。 島には自分の力が及ばない人間が居る。 この者には、私も手を出せない。 この娘は異国の力が守護についている。 大地を慈しみ、共に生きる娘。 今まで見えなかった。 感じられなかった。 何故。 オリュンポス側の神々の加護を得ていないというのに、この娘は戦地へやって来た。 何が娘を突き動かした。 私では娘を排除できない。 子供たち。 この地には私の影響を受けない者が居る。 この者を排除しなさい。 宿命の輪の中に居ない者が運命を変えようとしている。 私は娘の存在を予見していない。 自分を滅ぼす宿命の力が、異国の守護者を引き寄せたのではないか。 彼女は悲鳴を上げた。 |
春麗の手から離れた箱は、そのまま岩だらけの地に落ちる。 彼女は慌てて拾おうとしたのだが、魔鈴がそれを引き止める。 そんな二人をアイオリアが力業で抱えて、その場から引き離した。 三人の直ぐ横を、巨人の手がすり抜ける。 ポイトスは小さな箱に手を伸ばした。 そして箱の方も、巨人に向かって黒い煙を吐き出す。 巨人の体に書かれた呪術の光に、その煙はしみ込んだのだった。 |
地母神ガイアの耳に、我が子ポイトスの叫び声が聞こえた。 |
アルゲティと瞬を追いかけようとした星矢たちは、第一の宮で獣のような咆哮を聞く。 「急ごう」 紫龍は駆ける足を早めた。 とにかく春麗が無事である事を確認したい。 彼は教皇シオンが一緒だと言われても、心に覆い被さる不吉な影が拭えないでいた。 |
地上に居た冥闘士たちは、島の雰囲気が変わったと口々に言い始めた。 「そう言われれば、空気が軽くなったような気がする」 イオは雨に打たれながら、天を見上げた。 シルフィードもまた空を見る。 恵みの雨と言う言葉を、彼は思い出した。 |
ポリュデウケースは最初、何が起こったのか分からずにいた。 しかし、時間が経つにつれ、黒の聖域に起こりつつある事態を理解する。 この地に張りめぐらされた呪術は機能が停止するどころか、自分でも制御不可能になったのである。 彼の足元で床の石版に亀裂が入る。 しかし、ポリュデウケースも二人の黄金聖闘士たちも神殿から逃げようとはしない。 未だに足元に浮かび上がった紋様は光を放ち、その下から強大な生き物の気配が感じられた。 |