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ドイツの古城ハインシュタインでは、パンドラとラダマンティスが緊張に満ちた時間を過ごしていた。 この様な状態はラダマンティスにとっては任務であり、常に起こり得るべき事と訓練が出来ている。 しかし、パンドラの方は慣れない状況に疲労もたまって、いつの間にかソファーに座ったまま眠っていた。 ラダマンティスは毛布にくるまって眠っている自分の女主人を見る。 「……」 状況によっては自分が彼女を殺さなくてはならない。 『いずれその忠義の程を試させてもらう。 その時お前たちの手がパンドラの血で汚れていたならば、先程の言葉の代償を貰おう』 ハインシュタインの森の中で交わされたエリスとの賭けが思い出される。 だが、ラダマンティスにとっては、眠っている少女を手にかける事こそ代償を支払ったも同然だった。 (この方以外に大事なものなど無い……) パンドラの体に掛かっていた毛布が少しずれたので彼が直そうとした時、風が窓ガラスを叩いた。 その音にパンドラは目を覚ます。 「来たのか?」 彼女は毛布を退かすと、素早く立ち上がり腰に下げている黒い短剣を確認した。 それと同時に部屋の入り口から黒い煙のようなものが入り込む。 ワイバーンの冥闘士は、それが火災による煙でないことは直ぐに分かった。 ゆっくりと扉が開く。 そこに立っていたのはサイクロプスのギガントだった。 だが、その気配は冥闘士の仲間とは思えない程、異様だった。 それ以上にラダマンティスが驚いたのは、ギガントの背後に爛々と光る目があった事。 巨人族は二体居たのである。 「パンドラ様!」 ラダマンティスは素早く彼女を抱えると、急いで窓から脱出をした。 自分一人で二体倒せるか。 ギガントを救う事は不可能なのか。 何よりも彼女を守りきれるか。 彼はパンドラを抱えたまま、ハインシュタインの森に入った。 森は今でこそ生き生きとしているが、元は冥王の直轄地である。 他の場所に行くよりも、森自身がパンドラを守ってくれる確率が高い。 危険な状況ではあるが、その僅かな希望が今の彼には心強かった。 |