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追跡者 2

暗い玉座の周辺に、明かりがつく気配はない。
此処には自分と冥王しか居ないのだとミーノスは納得した。
冥王は彼の反応を知ってか知らずか、言葉を続ける。
『余の望みは、ある聖闘士の抹殺。
それを其方に任せたい』

(……)
『その者とは、其方も強く執着するペガサスと運命を同じくする聖闘士。
其方が時に敵とし時に餌として喰らう存在は、常にその聖闘士と共にある。
余の所に居れば、ペガサスに遭う事も出来よう』

この言葉にミーノスの心は高揚した。
(グリフォンはペガサス専属の追跡者だったのか……)
聖戦の時には花の香りとオルフェの竪琴で惑わされたが、今度は逃さない。
確実に息の根を止めて見せる。
ミーノスは深く頭を下げた。
この時、彼の耳に冥王の声が聞こえた。
『ペガサスが女神 ── を見つけたら、姉も冥妃も戦いに巻き込まれる。
それは何としても避けなくては……』

その口調は何処か悲しみが込められているように聞こえた。

再び顔を上げた時、今度は花の咲き乱れる場所だった。
周囲の変貌に、彼は何が起こったのか分からず戸惑う。
そんな彼の許に、美しい女性達がやって来た。
一目で母娘と分かるのだが……。

(パンドラ様……?)
どちらも自分の知っている女主人に似ている。
ミーノスは失礼にならないかと気をつかいながらも、彼女たちの様子を注意深く見た。
すると娘の方が、彼に近づいたのである。
娘は彼の前に立つと、優しい声で話しかけた。

『ペガサスは聖闘士と共に、私の親友を見つけようとしているだけなのです』

ミーノスはただ静かに聞いていた。
(その御親友が問題なのだな)
冥王の守りたい者を戦場に向かわせる女神とは、どんな存在なのだろうか。
そしてそれはペガサスが強く固執する者。
(会ってみたいものだ)
彼はそう考えたが、脳裏に別の言葉が響いた。

出会ウ事ガ出来タナラ、ぺがさすト聖闘士ノ目ノ前デ女神ヲ……。

その声が聞こえた途端、女性たちは姿を消し周囲に咲いていた花が一斉に散った。
花の香りが充満する。

(やはり私の体を動かしているのは、冥衣の中に眠っていたグリフォンの本能だ!)
今や彼の冥衣は闘士の体を利用して、ペガサスの聖闘士抹殺に動いている。
ペガサスを喰らう存在だからこそ、冥王は自分の手元に置いていた。
早く止めなければならない。
そう思った瞬間、ミーノスは周囲にそぐわない匂いを感じた。
(血の匂いだ!)
彼の中に居た別の意識が、ミーノスから離れて強い反応を示した。

その瞬間、見たことの無い青年がミーノスの拳を受けていた。

「初めてお目にかかる。
俺の名はシーホースのバイアン。北太平洋を守護する海将軍だ」

最後の柱に来ていたシーホースのバイアンは、とにかく事態を収拾すべくミーノスを止めることにした。
どういう訳だか会った事が無いのに、彼はミーノスがグリフォンの冥闘士である事が分かった。
とにかく、他の冥闘士たちに比べて小宇宙の大きさも桁違いだが、何よりも向こうとは宿縁のようなものを感じる。

ミーノスもまたグリフォンの意識が分散されていることに気がついた。
ペガサスの方を意識しながらも、傷付いている海馬を無視出来ないのだ。
その迷いが動きに現れたらしく、バイアンは素早くミーノスを大地に押しつけた。