|
暗い玉座の周辺に、明かりがつく気配はない。 此処には自分と冥王しか居ないのだとミーノスは納得した。 冥王は彼の反応を知ってか知らずか、言葉を続ける。 『余の望みは、ある聖闘士の抹殺。 それを其方に任せたい』 (……) 『その者とは、其方も強く執着するペガサスと運命を同じくする聖闘士。 其方が時に敵とし時に餌として喰らう存在は、常にその聖闘士と共にある。 余の所に居れば、ペガサスに遭う事も出来よう』 この言葉にミーノスの心は高揚した。 (グリフォンはペガサス専属の追跡者だったのか……) 聖戦の時には花の香りとオルフェの竪琴で惑わされたが、今度は逃さない。 確実に息の根を止めて見せる。 ミーノスは深く頭を下げた。 この時、彼の耳に冥王の声が聞こえた。 『ペガサスが女神 ── を見つけたら、姉も冥妃も戦いに巻き込まれる。 それは何としても避けなくては……』 その口調は何処か悲しみが込められているように聞こえた。 |
再び顔を上げた時、今度は花の咲き乱れる場所だった。 周囲の変貌に、彼は何が起こったのか分からず戸惑う。 そんな彼の許に、美しい女性達がやって来た。 一目で母娘と分かるのだが……。 (パンドラ様……?) どちらも自分の知っている女主人に似ている。 ミーノスは失礼にならないかと気をつかいながらも、彼女たちの様子を注意深く見た。 すると娘の方が、彼に近づいたのである。 娘は彼の前に立つと、優しい声で話しかけた。 『ペガサスは聖闘士と共に、私の親友を見つけようとしているだけなのです』 ミーノスはただ静かに聞いていた。 (その御親友が問題なのだな) 冥王の守りたい者を戦場に向かわせる女神とは、どんな存在なのだろうか。 そしてそれはペガサスが強く固執する者。 (会ってみたいものだ) 彼はそう考えたが、脳裏に別の言葉が響いた。 出会ウ事ガ出来タナラ、ぺがさすト聖闘士ノ目ノ前デ女神ヲ……。 その声が聞こえた途端、女性たちは姿を消し周囲に咲いていた花が一斉に散った。 花の香りが充満する。 (やはり私の体を動かしているのは、冥衣の中に眠っていたグリフォンの本能だ!) 今や彼の冥衣は闘士の体を利用して、ペガサスの聖闘士抹殺に動いている。 ペガサスを喰らう存在だからこそ、冥王は自分の手元に置いていた。 早く止めなければならない。 そう思った瞬間、ミーノスは周囲にそぐわない匂いを感じた。 (血の匂いだ!) 彼の中に居た別の意識が、ミーノスから離れて強い反応を示した。 |
その瞬間、見たことの無い青年がミーノスの拳を受けていた。 「初めてお目にかかる。 俺の名はシーホースのバイアン。北太平洋を守護する海将軍だ」 最後の柱に来ていたシーホースのバイアンは、とにかく事態を収拾すべくミーノスを止めることにした。 どういう訳だか会った事が無いのに、彼はミーノスがグリフォンの冥闘士である事が分かった。 とにかく、他の冥闘士たちに比べて小宇宙の大きさも桁違いだが、何よりも向こうとは宿縁のようなものを感じる。 ミーノスもまたグリフォンの意識が分散されていることに気がついた。 ペガサスの方を意識しながらも、傷付いている海馬を無視出来ないのだ。 その迷いが動きに現れたらしく、バイアンは素早くミーノスを大地に押しつけた。 |