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微妙な光の点滅。 一般の人間が見れば、それはただ光っているだけだと思うかもしれない。 だが、御者座のカペラには何かの流れのように見えた。 彼は自らの小宇宙を高めると、聖域の大地に出没した紋様に円盤を叩き込む。 その瞬間、光は円盤を呑み込んだが、次には紋様の方が崩壊した。 カペラも突如発生した砂利の飛散により、身体のあちこちに傷を負う。 「……」 騒ぎを聞きつけて駆け寄ってきた雑兵が、現場の凄さに息を飲んだ。 広範囲に抉られた大地が、闇の中で僅かに光を放っていたのである。 そして同じ頃、他の場所でも白銀聖闘士たちが次々と紋様を破壊していた。 彼らは呪術を恐れる事なく、自分たちの出来る事を遂行する。 闘士の小宇宙の輝きが呪術の光に溶け込む。 その後、次々と彼らの小宇宙を喰らい崩壊した。 その衝撃は凄まじいものがあり、近くにいた雑兵達の中には大怪我をしたものもいる。 しかし、彼らは女神の聖域を守る為に躊躇ったりはしなかった。 十二宮前の広場に出来た光の湖は、尚も輝きを保っていた。 しかし、遠くの方で何かの音が聞こえて来る度に、その光量が僅かに少なくなる。 そして彼らを引きずり込もうとする力も弱まりはじめた。 だが、先程の格闘の影響の所為なのか、邪武の身体が真っ先に沈んでゆく。 それを蛮が腕を掴んで助けるが、彼自身も思うように進まない。 徐々に彼らは身動きが取れなくなっていった。 その時、風の中で僅かに何かが耳に聞こえてきた。 音色は段々とはっきりしてゆく。 それに呼応するかのように、光の波が外に向かって動く。 「オルフェ……」 アステリオンは竪琴を奏でながら階段をゆっくりと昇る白銀聖闘士を見た。 星華もアステリオンに担がれながら、その聖闘士の方を見る。 オルフェの奏でるメロディに合わせて光が動く。 そして呪術によって作られた光は、本物の水のように周囲に溢れ、拡散し、大地に吸い込まれた。 残されたのは光に抉られた床の真ん中で、肩で息をしている青銅聖闘士たち。 「どうやら収まったみたいだな」 オルフェは周囲を見回す。 先程まで聖域は呪術の放つ光でかなり明るかった。 しかし、今の聖域を照らす明かりは雑兵や聖闘士たちが持つ松明の明かりのみ。 「アステリオン。今度は敵が闇に紛れて来る事を警戒してくれ」 「分かった」 「女神が戻られるまで、何としても死守するんだ」 オルフェの言葉にアステリオンは頷くと、星華を抱えて階段を降りた。 その後、邪武たち青銅聖闘士たちが持ち場に戻ってゆく。 聖域を包む闇は依然深かった。 |