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同胞 6

目的地の天候が思わしくないという事で、飛行機は目的の空港に降りる事が出来なかった。
ソロ財団の重役である男性は自分がチャーターした飛行機の中だというのに、威圧的な青年の存在に忌ま忌ましさを覚える。
しかし、一応これでグラード財団の重鎮に貸しを作れたと思うと、それをどう利用しようかと考え始めた。
とにかく美穂という若い娘の方は体調が良くないらしいが、そのような事は自分が知った事ではない。
ソロ家の縁戚に電話連絡を入れると、彼はそのままアタッシュケースを持って空港のゲートをくぐった。
その時、幾人かの不気味な印象を受ける人間とすれ違う。
彼らは背後にいるであろう青年と少女を迎えに行くらしい。
自分の傍にいるボディーガードよりも数が多いのには少なからず驚いた。
(ずいぶん仰々しい出迎えだな)
しかし、それ以上は自分が考えることは無い。
彼はそのまま空港を出た。

星矢はペガサスの神聖衣が以前とは違うことに気付く。
なぜなら前の神聖衣には海の色のような青い宝石は付いてはいない。
そして彼はその石を小さい頃に見たことがある樣な気がした。
何処で見たのかは思い出せないが……。
「アキレウス。行くぞ!」
星矢の言葉にアキレウスは薄く笑った。
目の前にいるのは女神パラスの加護を得た闘士。
戦ってみたいと願い続けた存在が居る。
その力がどれ程のものなのか知りたい。
それが例え島を崩壊させる事になろうとも、全力で拳を交わしたいと彼は思った。

建物の内部を照らす光が弱まりつつある黒の神殿。
アフロディーテは懐かしい小宇宙を感じて、表情を硬くした。
それは密かにトロイアを守り続けてくれた女神のもの。
あの地に住む人々は、この小宇宙に守られて平和に暮らしていた。

『懐かしいか。英雄殿』
ポリュデウケースがいきなり話しかける。
しかし、魚座の黄金聖闘士は返事をしない。
「アフロディーテはこの小宇宙の持ち主を知っているのか?」
デスマスクの質問に答えたのは不死なる神の方だった。

『女神アテナの最強の守護者が降臨したという事だ。
さぞかし天上界は慌てふためいている事だろう』
そして彼はデスマスクの方を見ると、言葉を続ける。
『これで島が壊れるのは確実になった。
早く女神を島から引き離す事だな』
ポリュデウケースは笑う。

(まさか女神パラスの方が動くとは……)
神話の時代に幾度か会った事のある若き女神の姿を思い出す。
いつも穏やかな表情を見せていた武神。
その戦闘能力は高く、決して敵にしてはならないと言われていた。
だからこそトロイアは彼女の聖像を隠し、大神ゼウスは戦争を利用して聖像を奪還しようとしたのだ。
(あの力が今、ペガサスの聖闘士に宿った)
ポリュデウケースはアテナの盾を持って自分の前に立った少年を思い出す。
(十二宮を突破し、アテナの盾を得たのは偶然ではないということか……)
しかし、これで自分の役目は終わったと言うことだろう。
女神アテナは親友の元へ行く事が出来るのだから……。
そして、あれ程憎んでいたペイリトオスはシードラゴンの海将軍に倒された。
心の何処かで悔しさを感じないわけではないが、むしろ妹たちの危機に対して役に立たなかった自分よりも、カストールと同じ地位にいる者が仇をとった方が相応しいかもしれない。

自分の中で何かが終わろうとしていた。
不死である筈の自分が初めて知った感覚。
『……』
そして足元に浮かび上がる光の紋様。
此処から出てこようとする巨人をどうするか。
ポリュデウケースの脳裏に一つの計画が出来ようとしていた。