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同胞 3

それは広大な夜空を流星の如く翔る。

巨人グラティオーンの消滅。
それによって沙織たちの周囲には再び静寂が訪れた。
ヘラクレス座の白銀聖闘士であるアルゲティは腕に鋭い痛みを感じて、ヘラクレスの弓を落としてしまう。
しかし、彼は何事もなかったかのように再び弓を拾った。

(ヘラクレスの弓はヘラクレス座の聖闘士にしか使えない……)
沙織はペンダントの青い宝石を握りしめる。
このままヘラクレスの弓を使うことがなければ良いのだが、先程よりも周囲の紋様の輝きが弱まっているような気がする。
これが呪術の弱体化を示すのであれば仕方のないと思えるが、矢座の聖闘士の小宇宙を込めたヘラクレスの矢が効力を失いつつあるのではないかとも考える。
後者ともなると、聖闘士たちは黒の神殿にいるであろうポリュデウケースに会う事が難しくなる。

誰もが似たような事を考えた。
アルゲティが沙織の前に跪くと、ヘラクレスの矢をもう一度射る為に神殿に向かわせて欲しいと言い出した。
「アルゲティ。 既に矢はポリュデウケースの側にある筈です。
その体で巨人族の目から逃れ、神殿に向かい、ポリュデウケースと戦おうと言うのですか」
しかし彼は躊躇う事なく沙織の許可を求めた。
どちらにしても、この場でヘラクレスの弓と矢の両方に触れるのはアルゲティしかいない。
(ここでポリュデウケースを逃せば、サガを救うことは不可能となってしまう……)
そして大勢の闘士を呪術の餌食にすることは出来ない。
結局、沙織はアンドロメダの聖闘士を同行させる条件で許可をする。
そして瞬には、アルゲティとヘラクレスの弓と矢には絶対に触らないようにと念を押した。

二人の聖闘士が黒い神殿を目指す。
しかし、沙織は次々と島に現れる巨人族の存在に不安を感じていた。
とにかくアルゲティには神殿まで辿り着いて貰わなくてはならない。
その為には自分が囮となって、巨人たちの目を引きつける必要が出てくる。
彼女は手に持っていた青い宝石を再び見る。

(パラス……)
神話時代の親友であり、最高の武神だった女神。
沙織は祈るように宝石を額に当てた。
この時、突如脳裏に闇の中を翔る天馬のイメージが思い浮かんだ。
(ペガサスが……来る!)
美しい翼を持った不死の象徴とまで言われる聖獣。
海の女神の寵愛を得ていた存在。
(私が忘れていても、“彼”は忘れなかったのね)
沙織は何となく悔しい気がした。

彼女は首飾りを素早く外すと、そのまま頭上へと高く投げる。
聖闘士たちは沙織の行動を不思議に思いながら、首飾りの動きを見た。
すると光が首飾りの輪を通ると、そのまま青い宝石を持ったまま再び上へと駆け抜けたのである。
「アテナ!」
この事態に驚いたミロが光を追おうとしたが、沙織はそれを制する。
「あれでいいのです」
彼女は光の去った方向を、改めて見たりはしなかった。