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十二宮の傍にいた邪武は十二宮の前がやたらと光っている事を不審に思い、階段を駆け上がる。 「何だ、これは!」 そしてその先に見えたのは、輝く水面のような石畳。 その中心でペガサスの神聖衣は光の中に沈もうとしていた。 「させるか!」 彼は反射的に神聖衣へと突き進む。 石畳の筈なのに、まるで泥沼の中を歩いているかのような感触。 それも自分まで引きずり込まれそうな程、足元の光はまとわりついて離れなかった。 「邪武!」 他の青銅聖闘士たちも十二宮へと到着する。 その頃には邪武も腰まで光に呑み込まれていた。 ペガサスの神聖衣に至っては、胴の部分が半分以上沈んでいる。 邪武は神聖衣を抱えると持ち上げようとした。 しかし、その反動で自分の方が沈みそうになる。 「邪武を助けるぞ!」 そう言って那智が駆け出す。 その後を市と檄、そして蛮と続いた。 すると、神聖衣にまとわりつく光が力を増し、彼らを沈ませようとする。 明らかに何かの意志が存在しているかのようなタイミング。 「取られてたまるか!」 見えない敵に向かって、ユニコーンの青銅聖闘士は叫んだ。 |
同じ頃、デスクィーン島に出現した最後の柱の傍では、ペガサスの神聖衣の所有者が敵の動きを察知していた。 先程喰らった衝撃で身体がまだ痺れているが、体力を回復する時間は無い。 何故ならアキレウスの頬には黒い血管の様な物が浮き出ており、異様としか思えない状態だったからである。 しかもその表情は、何処か機械的にも思える。 (何があったんだ???) 闇色の聖衣がどんな性質を持っているのか分かっていない星矢だったが、それでもアキレウスが先程とは違っている事は分かる。 (早く決着を付けないと……) 星矢は拳に力を込めた。 |
神聖衣と闘士たちを呑み込もうとする光の呪術。 その光景を見て、星華は言葉を失う。 (星矢の聖衣が! あれが無くなったら、星矢は……) 彼女もまた神聖衣の元に行こうとするが、アステリオンが止めに入る。 この様な現象が起こっている場所では、一般人の星華は足手まといでしかない。 「離してください!」 「駄目だ。 あんたでは奴らの足手まといになる」 そう言ってアステリオンは再び星華を担いだ。 (ここから引き離さないと、彼女は残酷な光景を見る事になってしまうかもしれない) そう考えて彼女を連れ出そうとした時、星華が抵抗しながらもペガサスの神聖衣に向かって叫んだ。 「お願い。星矢の許に行って。 あなたは星矢の翼なの。 天を翔て!」 星華の叫びの後、一瞬だけ周囲の音が消えたかのような静寂が訪れる。 そして、十二宮前の広場に強い風が吹き始めた。 アステリオンは星華を抱えているので、強風から彼女を守るように庇う。 風はペガサスの神聖衣の周辺を旋回し、光を周辺にまき散らす。 邪武たちは自分たちを引きずり込もうとする力が弱まった事に気が付いた。 「檄。こいつを放り出せるか!」 「やってみよう」 大熊星座の青銅聖闘士はペガサスの神聖衣を抱えると、上へと持ち上げた。 邪武はそれを支えながら怒鳴る。 「お前の聖闘士は強情な奴だ。 そいつを主に決めたのだから往生際の悪いことをやってないで、さっさと行け!」 そして檄を中心に、彼らは力を合わせてペガサスの神聖衣を空へと放り投げたのだった。 ペガサスは一瞬にして光となり、夜空に消えてゆく。 しかし、彼らには見送る暇は無い。 風が弱まると、再び足元から呑み込まれそうになっていった。 |