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「巨人ミマース。火と鍛冶の神を覚えているか?」 シオンの問いに相手は一瞬たじろぐ。 そして炎はシオンからミマースへと移動する。 その動きは蛇のようだが、何しろ炎を発生させているのはドロドロになった溶岩なのだ。 溶岩はミマースの足元に広がると、彼の身体を呑み込んだ。 巨人本来の姿ならばもう少し時間がかかったであろうが、今は人間よりも大きいというくらい。 瞬く間にミマースの下半身は大地へと沈む。 巨人は溶岩から逃れようと、身体を大きくしたり長くしたりと変形を繰り返す。 そのうち近くにあった呪術の光とミマースの身体に書かれていた呪術の紋様が溶け合い、彼の身体は崩れ落ちた。 そして岩と化した右腕のみを残して、ミマースは完全に消滅。 周囲は急に静かになった。 「神の力を借りると、ここまであっけなく終わるのだな……」 それが実力の差なのだろう。 そしてシオンは周囲の空気が再び冷えると同時に、急に自分の身体が重くなったように感じた。 緊急時と言う事で、即席に神の依代になったのである。 慣れない感覚と異質な力によって身体に負担が掛かったらしい。 彼は口の中で血の味を感じた。 そしてその場にズルズルと座り込んだのだった。 |
深い青の世界。 |
遥か昔、海の女神と出会った聖闘士がいた。 単にペガサスの聖闘士だったという事で、当時は疑問にも思わなかった。 何故なら馬は自分の管轄下にいる動物。 それが神聖なる翼を持って、この世に誕生したもの。 パラスが特に目をかけるのも無理はなかった。 しかし、今思えばこれが予兆だったのだろう。 そしてパラスは親友を守る為に世界から姿を消す。 もう誰も名前を口にしない。 そんな忘れ去られた筈の女神を、忘れずに追うものが居た。 片方はゼウス。 こちらはパラスを直接捕らえない限り、探し続けるだろうと分かっていた。 もう片方はペガサスの聖闘士。 これが分からない。 最初は人間の方が探しているのではなく、ペガサスの聖衣がパラスを探しているのだと思っていた。 だからこそ、この事に気が付いた天上界は数多くの人間を聖域に送り込んだ。 その目的はペガサスの聖衣を合法的に得て、 パラスを見つける事。 なのにあの聖闘士は天上界が用意した闘士たちを退けて、幾度かペガサスの聖衣を得ている。 ただの人間だというのに、その男は地上に現れてはパラスを探している。 何がその聖闘士を突き動かしているのだろうか。 |