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突如として小刻みに震え始めた巨人。 その様子にミーノスは糸の力を緩める。 得体の知れない力が再び糸を伝って自分の方にやって来る事を警戒したのである。 (何が起こったのだ?) 明らかに相手はには何かが起こっていた。 そしてミーノスの足元の大地に、突然光が現れる。 彼は咄嗟に避けようとしたが間に合わず、細い光が彼の冥衣の上を走った。 |
「……如何なされましたか?」 アルデバランの言葉に、闇を見上げていた沙織は首を横に振った。 「何でもありません」 彼女は光の無い空間に何かが居たように感じた。 しかし、それは居ただけで力のないモノ。 特に気にする事は無いと彼女は判断した。 そして先程まで強烈に感じていた異形の神の気配は無い。 (シュラ……よくやりました) 沙織は再び黒い聖域を見つめた。 |
迷宮に存在する光と闇の牡牛。 トゥーリオスは自分が何故それに執着するのか分からなかった。 しかし、明らかに思考は混乱をし始める。 牡牛を外へ出しては行けない。 富と栄華の証を外に出さないようにするのは……自分の役目。 そう考えた時、トゥーリオスは叫んだ。 石像に組まれた呪術が逆に自分を浸食し始めた事に気付いたからである。 彼は自分の思考を疑い始める。 母神ガイアの施したものと同じような形式だったゆえに、石像の呪術に馴染むのが早かったと言うことだろうか。 読めたのは偶然ではなく、自分をわざと此処に閉じ込める為だったのだろうか。 巨人は混乱をし始める。 逃げなければ取り込まれてしまう……。 |
迷宮ノ中……光ノ牡牛。 前方、闇ノ牡牛。 牡牛、逃亡。光、迷宮ノ中。 牡牛ヲ閉ジ込メル。牡牛ハ迷宮。 牡牛ハ一頭。スリ替エサセテハナラナイ。 牡牛ハ逃ゲテイナイ。 前方、牡牛確認。 みーのす王確認。 みーのす王ト牡牛。 みのたうろす。 闇ノ牡牛、みのたうろす確認。 迷宮ノ中……光ノ牡牛。 前方、闇ノ牡牛。 牡牛、逃亡。光、迷宮ノ中。 ………………。 |
延々と繰り返される言葉。 タロスは与えられた命令を遂行するための証明を繰り返す。 しかし、それは既にループ状態になっていた。 もしここで呪術に長けた者が居たのなら新しい命令を強引に組み込めた。 だが、逆に呪術に支配されているトゥーリオスでは、その行為事態が自滅となりかねない。 既に石像は、二頭の牡牛をどうしたら良いのかという問題に答えが見つけられずに動けなくなっていた。 そしてトゥーリオスは冥闘士の攻撃を受け続けるだけになっていた。 激しい勢いの男という異名を持つ巨人は、石像の背中から無理矢理外に出ようとした。 とにかく急がなくてはならない。 しかし、それは叶わなかった。 呪術の浸食が想像以上に早かったのである。 それにより実体化する事が出来ず、巨人は石像に半分以上同化したまま石になってゆく。 その光景を見ながらミーノスは得体の知れない感覚に一瞬戸惑う。 自分の中に何かが居る。 それは破壊への衝動。 全ての物が脆く思えた。 一目で石となった巨人の崩壊ポイントが何処であるのかが分かる。 その為、巨人がガラスで出来ているような気がした。 彼は、その一点を目指して糸を放つ。 そして糸は針のように目的の場所に突き刺さると、巨人の身体を貫いた。 石となった敵の身体に細かいヒビが入る。 「こんなものに手間取っていたとは……」 彼はそう言うと、糸を弾いた。 「……」 ゴードンは目の前で起こった出来事に目を見張るしかない。 ミーノスの糸が石となった巨人の身体を粉砕したのである。 そして彼の背中の冥衣が一瞬、生き物の翼のように見えたのだ。 巨大な鷲のような翼。 魔獣グリフォンの翼。 それが彼にはミーノス自身が持つ翼に見えた。 |