INDEX

続・庇護 3

強い風が唸り声のように建物に響きわたる。
そして闇の宮の壁にも亀裂が走った。
(老師は何処に居るの?)
いきなり弾け飛ぶ外壁の石を警戒しながら、春麗は建物の中を隅々まで歩いた。
しかし、自分の他に人の姿が見当たらない。
段々と心細くなってゆくが、とにかく彼女は諦めずに何度も部屋の中を見て回った。

次々と壁に亀裂が入り、中には天井の紋様が消えた場所も有る。
そんな緊迫した環境の中で、春麗の耳に高い音が聞こえてきた。
(なにかしら?)
恐る恐る音のする部屋を覗いてみると、天井に紋様の有る薄暗い部屋の片隅に穴が空いており、風が吹き抜けることによって音を出している。
(この壁の向こう側は外?)
しかし、彼女の脳裏に先程の出来事が思い出される。
シオンが黒い闘衣を見つけたのも、壁の奥の部屋だった。
(この奥に老師が居るかもしれない!)
気持ちは逸るが、春麗自身は箱を抱えているので手で壁を壊すという事が出来ない。
(どうしよう……)
とにかく自分のやれる事をと思い、壁に体当たりをしてみる。
しかし、ヒビの入った壁は、少女が壊せる様な代物ではない。
「……」
ところが三回目に体当たりをした時、鈍い音と共に壁が震えたのである。
「!」
春麗は驚いて壁から離れたのだが、目の前のそれが崩れた様な気配はない。
ただ、出入り口から少量の粉塵が風に乗って部屋に流れ込んだ。
彼女は様子を見に部屋を出る。

「あっ……」
先程まで彼女が居た隣の部屋は、跡形もなく消し去られていた。
呪術の光が照らすその場所は、言葉通り床も壁も消えていたのである。
その代わりに現れたのは、建物の下に続く階段のような道。
周辺には異常な程の呪術の模様があり、建物内部とはうって変わって明るかった。
そして先程まで床であっただろう石版の残骸が紋様の上に散らばっている。

突然出現したそれを、春麗は疑わしそうに見る。
そして、そこから遥か下の方に何かが光っているのを見つけた時、彼女はドキリとした。
温かそうな光をまとう人の姿。
しかし、この建物には探し人の老師以外では自分しか居ない筈。
老師とは違う人間に思えたが、光る鎧を身に着けているように見えない事も無い。
もしかしたら自分が知らないだけで、黄金聖闘士の誰かが老師を助けに来ているのではないか。
しかし、春麗が声をかけても相手は動く気配がない。
(まさか、動けないとか!)
彼女は覚悟を決めて石版の上を選びながら、階段を下りる。
足場は悪いが、十分な光が有るので何とか通れるのが救いだった。

身体は呼吸をするのも苦しいくらい痛い。
そして砕け散る呪術の鎖。
シュラは何とか体勢を整えながら、今まで自分を拘束していた物が消滅した事を知る。
(さすがに無茶だったかもしれん……)
何しろ暴れる異形の獣の攻撃をまともに喰らったのである。
それもワザと。
しかし、そのお蔭で忌ま忌ましい鎖は二度と彼の手足に現れることはなかった。
だが、その代償に山羊座の聖衣には亀裂が走っている。
自らの小宇宙を全開にしても、相手の攻撃力の方が上だったのだ。

そんな異形の存在は、突如動くことを止める。

その様子は山羊座の黄金聖闘士から見れば不気味であったが、彼は相手の頭にある二本の角が光を強めた事に気付いた。
(次の攻撃が来る!)
彼はスフルマシュに向かって駆けだすと、必殺技であるエクスカリバーを両手足を使って放つ。
今まで敵にすら使ったことは無い特殊技。
そして変則的に動く聖剣の刃が、スフルマシュを襲った。